私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

今日の一枚(290)

Album: Radio Music Society
Artist: Esperanza Spalding
Genres: Jazz, Fusion, Bossa Nova, Soul

Radio Music Society


アメリカ、オレゴン州ポートランド出身のベーシスト、マルチプレーヤー、
作曲家、ボーカリスト。1984年生まれ。
2011年にはGrammy Awardで最優秀新人賞を受賞しています。
5歳からバイオリンを始め、名門ノースウェストアカデミーの奨学金を
得たことをきっかけとしてベーシストに転向することとなります。
日本で言うところの大検(General Educational Development)で卒業資格を得て
16歳でポートランド州立大学に入学、その後教授の勧めでオーディションを受け、
バークレー音楽大学へと特待生として転入を果たします。
その後Pat Methenyに見出され、音楽活動を行う傍ら奨学金を得てバークレーを
飛び級で卒業し、20歳で最年少の講師として複数の講義や練習のサポートを行うなど
多忙な生活を送ることとなります。黒人系の父と、ヒスパニック系の母を持つ彼女は、
ブラジル音楽やフュージョン(特にWayne Shorterの大ファン)へと傾倒しており、
彼女の音楽性の重要な一部を成していると言えるでしょう。
ジャズフュージョンからのクロスオーバーの中に、オールドスクールなR&Bから
ヒップホップに至るまでの黒人音楽をも取り込んだ広大な音楽性を有しています。
他にはElla Fitzgeraldへのトリビュートコンサートを
行っていたPatti Austinの世界ツアーにサポートボーカリストとして参加したり、
Mike SternのソロアルバムであるBig Neighborhood, All Over The Peace
(詳細はMike Sternの項を参照)にベースとボーカルで参加するなど、
極めて広い音域を持ち、力強いハイトーンや音域ごとの独特なトーンの変化のある
歌手としての表現力の高さも高く評価されています。
それ以外にもFourplay/Energy(2008), Stanley Clarke/Toys Of Men(2007),
Christian Scott/Anthem(2007)などの諸作品にも参加しています。
本作は2012年作の4th。Radio Music=流行音楽 Society=同好会という名の通り、
Wayne Shorterが70年代にやっていたブラジリアン・フュージョンを消化しながらも、
緻密な計算によって作られたであろう、浮遊感があり、掴み所のないコード感は、
Donald Fagenのような感覚がある、というべきなのか、或いはクラシックの和声が
中心としてあり、むしろジャズはその中に取り込まれて存在している(前作)
というべきなのかは分かりませんが、
兎にも角にも非常に個性的なサウンドだといってよいのだと思います。
ベースラインは非常にメロディアスで素晴らしいのですが、
黒人ベーシストらしいシンコペーションの入れ方、休符の解釈というような
タイム感によって生み出される強烈なグルーブは特筆すべきものがあると思います。
前作のChamber Music Societyではウッドベースを中心にして演奏していますが、
今作ではフレットレスのエレキベース(62年製のジャズベースということらしいですが)
も多用しています。ゲストにはサックスにJoe Lovano(1952-),
ボーカリストではLalah Hathawayを迎えて制作されています。
プロデューサにはA Tribe Called QuestのラッパーであるQ-tip(1970-)が
起用されています。
#1Radio Songから非常にクリアでファンキーなグル―ブを生み出すベースラインをバックにして、
甘いトーンのスキャットが素晴らしい。いきなり捻くれた一曲で形容しがたい浮遊感があります。
後半のLeo Genoveseのピアノソロでこの曲がジャズを内包していることを思い起こされます。
#2Cinnamon Treeは、Jef Lee JohnsonのブルージーなギターとLeo GenoveseのFender Rhodes
がフィーチャーされており、時折フィリーなストリングスが入ってきます。
中低音で僅かにハスキーなフィーリングのあるボーカルがこれまた変わった
メロディを歌っています。アウトロの速弾きシンセがサイケデリックさを感じさせます。
Terri Lyne Carringtonの強いバスドラムやタムの叩きだすビートと、
メロディアスで激しいソロを取るトロンボーンに僅かにスラップの入ったベースライン、
ブライトなピアノのヴォイジングで端正なグルーブを作る#3Crowned & Kissedはお気に入り。
James Weidmanのオルガンとボーカルのみによる短いバラード#4Land Of The Freeに続いて、
ゲストのAlgebra Blessett(Vo)とのボーカルの掛け合い、同じくゲストの
Lionel loueke(Vo, G)のスキャットを入れた、会話するようなギターのフレージングが楽しい
#5Black Goldは、もう少しキャッチ―でソウル色の強い一曲に仕上がっています。
この曲のベースラインも最高のタイム感だと思います…溜息が出ます。
テーマとなっているメロディはどことなく東洋の香りが漂っていて、
不思議なフィーリングがあります。これもお気に入り。
Michael Jackson/Off The Wall(1979)に収録されている(作曲はStevie Wonder)
#6I Can't Help Itは、大胆なリズムチェンジを加えており、緊張感あるフィル、
ハイハットの刻みが心地良いLyndon Rochelleのドラムス、 Ricardo Vogtの
単音カッティングを絡めたギターリフが原曲よりも疾走感を生み出しており、
ドリーミーなボーカルはMichaelのそれにかなり迫るような音で、
アウトロではベースの上昇フレーズにハイトーンで静かに、
しかし熱く盛り上げていきます。最高のカヴァー。
#8Vague Suspicionsは、アコギの静かなバッキングとウッドベースの太く
メロディアスなフレーズに、突き抜ける高音のフルートやトロンボーンが代わる代わるソロを
取っていきます。ベースソロからは不安定な進行が続いていきます。
Wayne Shorter/Atlantis(1985)に収録されているカヴァー#9Endangered Speciesは、
ブラジリアンなリズムを叩きながらも、フィルではしっかりロックしている
Terri Lyne Carringtonのドラミングに、コラージュのように散りばめられた複雑で曲の
ダイナミズムを決めているコーラスワークにLalah Hathawayの渋いボーカルが加わります。
ベースラインは曲の展開と共に徐々に音数を増して行き、幾通りものパターンを聴かせます。
メロ部分での拍の取り方の上手さは完璧過ぎて鳥肌が立ちます。
Parilamentのような突拍子のない入り方と、ベースラインのもたれ掛かったタイム感の
ファンキーな#10Let Herは、キャッチ―でありながら忙しなく動くサビの展開も
かなり捻くれていて堪りません。
#11City Of RosesではプロデューサーのQ-tipがボーカルとグロッケンシュピールで参加しています。
Anthony Diamondのかなり長いサックスソロは聴き所です。
#12Smile Like Thatは、Gilad Hekselmanのトレブリーでアウトなギターソロを堪能できます。
滑らかなビブラートを多用したベースラインがグル―ヴィーです。
こうした多様な音楽からのクロスオーバーであり、かつ和声的にもリズム的にも構造が
入り組んだ緻密な作りでありながら非常に耳触りが良く、柔らかで透き通った歌声で、
歌ものとしても聴かせてしまう才能は、極めて奇跡的なものであるに違いありません。

Crowned & Kissed

Black Gold

I Can't Help It

Endangered Species

Let Her

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  1. 2014/05/09(金) 00:25:31|
  2. Esperanza Spalding
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  4. | コメント:2

プロフィール

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強しています。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
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オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは50,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
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