私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

今日の一枚(342)

Album: awakening
Artist: 佐藤博
Genres: AOR, Pops, Fusion

Awakening.jpg

鹿児島県南九州市生まれ、京都府京都市出身の日本のシンガーソングライター、マルチプレーヤー、
ピアニスト、キーボーディスト、プログラマー、エンジニア、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
1947年生まれ。2012年没。

寺院の子として生まれた彼は、中学生の頃からギター、ベース、ドラムを習得し、
高校生時代から自宅で一人多重録音に嵌り、オープンリールのトラックレコーダーで作曲を始めます。
フュージョン~AOR、ポップス界隈では日本を代表するスタジオミュージシャンとしても
知られる彼ですが、ピアノに関しては20歳からの独学で習得したものということらしく、
恐るべき努力と才能の人だと思います。70年代初頭から上田正樹のようなブルース系の
シンガーソングライターのバッキングを務めるようになり、75年には鈴木茂によって結成された
ロックバンドであるハックルバック(メンバーは鈴木茂(Vo, G), 佐藤博(Key, Vo), 田中章弘(B),
林敏明(Dr)の4人。1972年のはっぴいえんど解散以後のキャラメルママの結成、
その後細野晴臣を中心としたティンパンアレーへの改名(74年)と躍進の中で、鈴木がソロアルバム、
Band Wagonを渡米して制作し、その帰国後、アルバムの発売直前に活動を開始、一年間のみの
バンドとなりました。)のメンバー、ティンパンアレーのメンバーとしてライブを行うようになります。
ハックルバック解散後からは、RCA/AIR期の山下達郎や吉田美奈子、細野晴臣、大瀧詠一、
高中正義、南佳孝、松原正樹、ブレッド&バター、竹内まりや、アンルイスなどの作品に
ピアニスト、キーボーディストとして多数録音、ライブに参加するようになり、
76年には吉田美奈子の代表作となったFlapper(吉田美奈子の項を参照)の
サウンドプロデュースを手掛けています。同年にはソロアルバムを発売し、順調に
ソロキャリアを歩んでいきますが、79年の南佳孝/Speak Lowのレコーディングを最後にして、
80年に単身ロサンゼルスへと渡り、アルファレコードとアーティスト兼プロデューサーとして契約、
本作は渡米中の1982年に発表された4th。

ギター(松木恒秀、山下達郎、鳥山雄司)と
ボーカル(Wendy Matthews)以外の録音は基本的に彼一人で行っており、
ドラムスは当時最新鋭のサンプリング型ドラムマシンであり、わずか500台しか生産されなかった
LINN Electronics社のLINN-LM1というドラムマシンを用いて録音されています。
このリズムマシンとの出会いは佐藤氏にとって非常に大きなもので、これをきっかけに、
これがあれば自分の頭の中で鳴っている音を一人多重録音で完璧に鳴らせる、ということもあって、
日本への帰国を決意することになります。

帰国後はソロ活動の他に、テレビ番組やCMの音楽制作を
多数行いつつ、作曲家としての楽曲提供や、スタジオミュージシャンとして山下達郎、
吉田美奈子に加えて角松敏生(楽曲提供も行っています)、杏里などの作品で縦横無尽の活躍を見せます。
この頃(80年代中ごろ)からコンピューターによる打込みを楽曲制作に用いるようになり、
MIDI規格の導入とその使用においても先駆者と目されています。
90年には自らのスタジオであるStudio Saraを作り、オリジナルアルバムはここでレコーディングを
行われるようになります。00年代には本作を始め、初期作品のリマスターとCD再発を行い、
不定期のライブ活動を行っています。2008年には第50回レコード大賞を受賞した
青山テルマ/そばにいるねのアレンジ、ミックス、マスタリングを行ったり、
他にも日本のポップス界隈ではSoulJa、吉見一星などのプロデュースを行うなどしていましたが、
2012年に解離性大動脈瘤で急死となってしまいました。65歳での急逝ということで、
非常に残念でならないと思いますが、彼の残した作品、参加した作品は無数にあり、
ブライトで煌びやかな音色とスウィング感覚、優れたアドリブ能力と、
ジャジーで複雑なコードワーク、ブラックミュージックの影響色濃いメロウなソロなど、
どの点を取っても、彼のキーボードプレイは個性的で都会的で、一聴して彼のものだと分かる
プレイだと思います。

穏やかに打ち寄せる波のSEとブライトなタッチのピアノが静かに鳴り、
コズミックでどこか東洋的な雰囲気を醸すシンセが印象的なインスト#1Awakeningから始まり、
シームレスに繋がるツインボーカルの#2You're My Babyは、太く低音の出たベースの歯切れの
良いグルーブが最高です。シンセのバッキングはやはりどこかニューウェーブな香りがします。
打込みドラムスの音圧が上がったスロウなバラードの#3Blue And Moody Musicは、
エフェクトが掛けられたコーラスのデジタルな感覚と、極めて無機質なハットの刻みの
機械的なトラック中で、ハーモニクスの美しいギターや煌めくようなピアノが際立っています。お気に入り。
ポップでWendy Matthewsのソウルフルなボーカルが堪能できる#4Only A Love Affairは、
松木恒秀の歯切れの良く音数の絞られたカッティングと、佐藤のメロウなピアノソロが白眉です。素晴らしい。
重いタムを絡めたリズムパターンが印象的なインストの#5Love And Peaceは、
ハイファイで輪郭のはっきりしたエレピの軽やかなトラックの上で、
ブルージーなギターが唸りを上げています。
The Beatlesのカバー#6From Me To Youは、透き通ったコーラスワークを見せながら、
大仰なドラムソロとうねうねしたシンセベースでファンキーに仕上がっています。
歪んだ、太いトーンのギターは鳥山雄司のものと思われます。これもお気に入り。
再びデュエットによるバラードの#7I Can't Waitは、松木恒秀の硬質なリズムギターと、
遠くで鳴っているストリングス系のシンセ、淡々とした打込みドラムスの叩き出すグルーブに、
スラップのような音を取り入れたベースラインがブラックネスを与えています。最高。
YMOが同時代的にやっていたようなオリエンタルなシンセのフレーズやヴォコーダーを使ったコーラスが
ニューウェーブ的な#8It isn't Easyは、レイドバックしたドラムスと、
Wendy Matthewsのボーカルのお蔭でソウルフルなテイストもあります。
#1と同じタイトルのインスト#9Awakeningは、スライドを絡めたスラップフレーズが
ミニマルなグルーブを作るファンクで、シンセの音色が変わると同時に
単音リフを中心としたロックへと変貌していきます。
山下達郎の何時ものあのテレキャスターのシャキシャキしたコードカッティングが
フィーチャーされ、ボコーダで激しく加工されたボーカルが特徴的な
#10Say Goodbyeは、ドラムスの叩きだすダンサブルなリズムパターン、フィルには
どこか青山純を思わせるようなハードな音でありながらフュージョンライクなグルーブがあって、
Rhodesによるソロでクライマックスを迎えます。最高です。
#11Blue And Moody Musicは#3の別バージョンで、テンポアップしたトラックになっています。
ボーカルはMatthewsがメインとなり、リズムギターは松木から山下に変わり、
鳥山雄司によるギターリフも加わって、より肉体的なサウンドに生まれ変わっています。

打込みによるサウンドでありながら、その無機質なサウンドが生み出す幻想的な空気と、
生演奏によるピアノ、ギターの抑制されたプレイ、Wendy Matthewsのソウルフルなボーカルが
合わさって、フュージョン~80年代後半のブラックコンテンポラリーへと繋がって行く
洗練された音像を生み出しています。決して褪せることの無いであろう傑作だと思います。

You're My Baby

Blue And Moody Music

Only A Love Affair

Say Goodbye

BLue And Moody Music(Alternative Take)

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  1. 2014/10/18(土) 00:09:53|
  2. 佐藤博
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動名詞が続く前置詞inの省略と実例を考える

久々の記事でレビューでないのが申し訳ないのですが、
個人的に行っている受験英語の指導の際に、疑問になった点があるので個人的に調べてみました。
まず、英文を見てみます。
問題となるのは下線部です。

以下英文を引用
When you've lived as long as I have, you'll know that all our troubles solves themselves in time, and
that most of the things we think we want aren't worth half the energy we use getting them.
引用終わり

入試英語であれば、be worth A[Aに値する, Aの価値がある]と連鎖関係詞節(某大手予備校風に言えば)が
解説のポイントとなりますが、それはさほど難しいことではありません。
つまり、
連鎖関係詞節の元文はWe think that we want the things(the thingsが先行詞となり、think thatの、
名詞節を導くthatは省略される。目的格の関係代名詞を導くthatも省略されている。
【通例省略され、接触節と言われる】).となります。
それを踏まえたうえで、全文を直訳してみます。

【直訳】
あなたが、私と同じくらいの長さ人生を生きれば、私たちの悩み全ては、やがてはひとりでに解決し、
自分が欲しいと思っているものの大半は、それを手に入れるのにわれわれが使うエネルギーの半分の
価値にも満たないことが分かるだろう。
【大意】
あなたも私と同じくらいの年齢になったら、私たちの悩み事は全て、時が経てばひとりでに解決し、
今、自分が欲しいと思いこんでいるもののほとんどは、
それを手に入れるために要する労力に見合ったほど価値のあるものではないことが多い、ということが分かるでしょう。

となります。

前置きが長くて申し訳ないのですが、問題となる個所では、
前置詞inが省略されていると考えられます。worth doingの関係性を考えた生徒さんもいるようですが、これは
意味を考えれば明らかに間違っていますし、通例worthの直後に現在分詞が来ますので当てはまりません。

省略される前の文はこうでしょう。
half the energy that we use in getting them.
目的格の関係代名詞thatの省略と同時に、前置詞inの省略が見られています。
自分が調べたところ、高校生向けの文法書やセンター試験向けの対策書には、
前置詞inの省略についてはパターン学習(つまり英熟語の一種)で済ませていることが多く、
その代表格がhave a difficulty (in) doingと、spend O (in) doingと言う形です。
例文を挙げておきます。
I had a lot of difficulty (in) finishing the work behind the deadline,
私はその仕事を〆切までに終えるのに大変苦労した。
He spent most of his spare time (in) listening Soul music.
彼は暇な時間の大半をソウルミュージックを聴くことに費やした。

その他にも、これまで筆者が出会ってきたものだけでも、多数の例が考えられます。
He is slow in moving.
彼は動くのが遅い。
She is busy in finishing her work in time.
彼女は、仕事を間に合うように終わらせるのに忙しかった。

自分で調べた結論から言うと、確実な法則性は見つけられませんでした。
一般化すれば、動名詞の直前の前置詞inは省略されることがある、ということになりますが、
対応するinの意味内容は様々です。

遭遇する頻度の多いものは、

動名詞が続く場合の前置詞inの省略
1. [限定, 観点] ~という点において、~において、~に関して
2.[従事]~に従事して、~にかかりきりになって、~して
であるように感じています。


前置詞の省略で最も目にすることが多い例は、
いわゆるgo fishingというやつでしょう(これは前置詞forが省略されて出来たと言われています)。

そもそも、文法と言うもの自体が解像度に限界のある概念で帰納的な、後付けのものにすぎませんから、
完全に一般化したルールは無いわけですので、仕方がないですね。

それを、学校や予備校の文法教育では、「このように訳せばよい」こういう形はこの「訳」だ、
これは省略するけどこれはしない、と言う風に暗記させるわけですが、
短期的に試験で点を取らせる勉強としては、どうしようもない側面もあると思います。
実際には、たくさんの質の良い英語に触れる中で勘を磨いていくことが、冠詞や前置詞といった、
日本人の英語学習の中で一番難しく、かつ動詞と並び立って英語の心臓部となる概念を
理解する上では、避けて通れないことなのだと、大学に入った今も実感しています。

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  1. 2014/10/16(木) 01:34:42|
  2. 英語文法
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【祝】総閲覧者数2万人突破!

私的名盤紹介をご覧下さいました皆様、Twitterにて交流して下さっています皆様、
友人の皆さん、お世話になっております。管理人のSystematic Chaosです。

当サイトは、
2012年12月の開設以来、ユニークアクセスにて2万人のアクセスを頂きました。
内容としても散漫で、大衆受けしない長文での名盤紹介サイトで、
これまで続けてこれましたのは、ひとえにあたたかいコメントを下さっている皆様、拍手を押してくださいます皆様、
見て下さっています皆様のお蔭様でございます。ありがとうございます。

最近は更新が滞っておりまして大変申し訳ありません。
特別忙しい日々と言うわけでもないのですが、臨床医研修のために行われるCBT/OSCE試験も
近づいてきておりまして、なかなか記事を書けるような纏まった時間が取れない状態であります。
しかしながら、継続して新譜、旧譜の収集と積極的鑑賞をしておりますし、
素晴らしい作品とも多数で会っておりますので、時間の限りアグレッシブに更新して参りたいと思います。

これからもどうぞ宜しくお願い申し上げます。

2014年10月 自宅にて

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  1. 2014/10/15(水) 23:20:15|
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今日の一枚(341)

Album: Radio Days
Artist: 鈴木雅之
Genres: Pops, AOR, Soul, R&B, Funk

Radio Days


東京都大田区出身の日本の歌手。1956年生まれ。
元々は日本のドゥワップグループであるシャネルズ(1975-、改名後はラッツ&スター)のリーダー。

シャネルズ時代はメンバー達が自分の顔を黒く塗って化粧をし、ドゥーワップによる
楽曲を制作(作曲の多くは井上大輔、作詞は湯川れい子が担当)、演奏していました。
77年にはヤマハによるアマチュアバンドコンテストであるEast West'77に出演
(主な出場バンドとしてはCasiopea、サザンオールスターズ、
シャネルズ、アナーキー、エレファントカシマシ、SHOW-YA、HOTTENTOTS(久保田利伸)
てつ100%(杉原徹、菅野よう子)などが知られています)して、決勝大会へと進み、
入賞を果たしています。この当時から大瀧詠一と知り合い、アルバムLet's Ondo Againに
大瀧プロデュースによる楽曲が収録されています。TV出演などで徐々に知名度を上げ、
1980年にシャネルズとしてレコードデビューを果たします。81年にはLAの名門ライブハウスとして
Alice Cooper, Love, The Doors, Frank Zappaなどが出演したWhisky A Go Goでのライブの
模様が収録されたアルバムを発表したり、セールス面でも1st-3rdアルバムは軒並みオリコン1位、
デビューシングルのランナウェイは110万枚のヒットを記録しています。
その後リーダーであった彼は1986年に大沢誉志幸プロデュースによるシングル、
ガラス越しに消えた夏でソロデビューを果たします。その後も小田和正、山下達郎、Ray Parker Jr.、
槇原敬之など多くの外部プロデューサーを迎えながら良質なポップスを生み出しています。
本作は山下達郎プロデュースのもと制作された、1987年作の2ndソロ。筆者が所有しているのは
1991年に再発されたCDバージョンです。オリコン初登場12位。

日本におけるドゥーワップのオーソリティである山下にはシャネルズ時代から
目を付けられていたようで、プロデュースということになったようです。
直接山下が曲を書いているのは#2Guilty, #3Misty Mauve(以上2曲の作詞は竹内まりや),
#11おやすみロージーの3曲で、このうちGuiltyの山下によるデモバージョンは
2011年作のオリジナルアルバムRay Of Hopeの初回限定盤付属ディスクであるJoy1.5に、
Misty Mauveは裏ベストアルバムRarities(2003)に、
おやすみロージーはMoon時代のベストアルバムであるTreasures(1995)と
ライブアルバムJoy(1989)に収録されています。おやすみロージーのスタジオバージョンの
リードボーカルは、Joyのライブ音源のリードボーカルを貼り付けて作られています。
他にも作曲には佐藤博、安部恭弘(稲垣潤一、井上昌己、竹内まりやetc)などが参加しており、
あとは松尾清憲と鈴木雅之自身が作曲しています。

スタジオミュージシャンには、山下の提供曲で彼のバッキングを務める
青山純(Dr), 伊藤広規(B)のリズム隊と難波弘之(Key)、
その他には国内勢では大村憲司(G), 佐藤博(Key), 小林武史(Piano)など、
海外勢ではPaul Jackson Jr.(G, Paul Jackson Jr.の項を参照),
Abraham Laboriel(B, 1947-, Stevie Wonder, Al Jarreau, Elton John, Ray Charles, Quincy Jones,
Dave Grusin, Michael Jackson, 渡辺貞夫、松任谷由実、中島みゆき、角松敏生etc),
John Robinson(Dr,1954-, Quincy Jones, Michael Jackson, Chaka Khan, Lionel Richie,
Eric Clapton, Daft Punk, David Foster, George Benson)などが参加しており、
鉄壁の演奏を見せています。本来は5曲を山下がプロデュースする予定だったようですが、
予算とスケジュールの関係で3曲になってしまったというのが何とも残念ですが、
どうやら山下が音作りに相当な時間をかけていたらしく、スタッフからの評判は悪かったようです。

ただ内容としては海外勢のミュージシャンが参加した作品では非常に肉体的なグルーブがある
ファンキーな曲、山下達郎プロデュースの楽曲ではジャジーなものやドゥワップなど、
一枚の中でも非常に粒揃いのグル―ヴィーな楽曲ばかりで、非常に完成度の高い一枚だと思います。

インタールードとしてAMラジオのような音質で流れる#1"おやすみロージー"から
シームレスに繋がる#2Guiltyは、冒頭の大村憲司のギターで一気に引き込まれます。
バックにはシャキシャキした何時もの山下達郎(G)のカッティング、メロウなバックコーラスがあり、
青山純のへヴィなタム回しが極上のグルーブを叩き出します。大村のブルージーなギターソロも
弾き過ぎず泣いていて最高の名曲。
シンセの音が迫ってくるイントロのフレーズが楽曲中に
散りばめられ、無機質なビートをパワフルに叩く青山純のドラムスに、
ブリブリしたシンセベースを合わせたダークなグルーブを放つ#3Misty Mauveは、
山下達郎自身によるミュートの効いた、枯れたリードギターが密室的な音を見事に演出しています。
温かみのある鈴木のボーカルのバックを埋める山下のコーラスは冷ややかな感触があります。
ホーンのフレーズやハーモニーにはSly & The Family Stoneの名曲、
If You Want Me To Stayを思わせる部分がありますが、見事にリッチでシルキーな
AORに昇華されています。竹内まりやによる作詞のドライな情景描写も見事です。
全てが完璧に噛み合った一曲だと思います。ブリッジでシンセベースが前に出てくる展開も、
80年代後半の山下の得意技といった感じです。最高。
鈴木作曲、有賀啓雄(1964-, 音楽プロデューサー、ベーシスト)アレンジによる生々しい打込みの
ダンスミュージック#4Wild Beatは、歯切れの良いドラムスと、有賀自身による
ブリブリしたベースがファンキーな一曲です。山下がまだデジタル録音に慣れていなかった
こともあってか、音質は佐藤博や有賀啓雄のアレンジの方が、
山下提供曲よりも良いと思います。お気に入り。
安部恭弘作曲、佐藤博アレンジによるさざ波のように迫ってくるシンセの音作りが心地よい
#5微笑みを待ちながらは、歌謡っぽい濡れたメロディと、John Robinsonの、
サビ前のフュージョンライクなフィルインが鳥肌ものです。
Paul Jackson Jr.得意のカッティングと、Ernie Wattsのサックスソロが
クライマックスとなっています。最高。
松尾清憲作曲、佐藤博アレンジによる、温かみのあるポップな#6雨に願いをは、
フィリーなストリングスと鈴木昭男のサックスソロというスムースなバッキングの中で、
John Robbinsonのパワフルなドラムスが映えています。これも良い曲です。
鈴木作曲、戸田誠司アレンジによる#7Dry・Dryは、シンプルなハンドクラップと複雑なキック、
うねるベースの作るグルーブが粘りのある歌謡ファンクと言った感じ。隠れた名曲。
佐藤博作曲・アレンジによるEPOとのデュエット曲#8For Your Loveは、
佐藤によるパーカッシブなキーボードが、細やかなハットの刻みが疾走感を生み出す
John Robbinsonのドラムス, Abraham Labrielの何時もより派手に低音の出た重い
ベースによる鋭いリズム隊と完璧に嵌った一曲で、佐藤による柔らかいコーラスが多重録音で
重ねられています。お気に入り。
同じく佐藤博作曲・アレンジによる#9Tandem Runは、細やかで粒の揃ったPaul Jackson Jr.の
カッティングと、緊張感あるキメがフュージョンライクで渋い一曲で、
シンセのバッキングは東洋チックなフレーズが随所に出てきます。
ピアノ弾き語りにストリングスを加えたバラードの#10河の彼方は、
坂宏之のオーボエソロをフィーチャーした一曲。
Rosie & The Originalsによるドゥワップの名曲、Angel Baby(1960)へのオマージュということで
作られた山下提供曲の#11おやすみロージーは、幾重にも重ねられた多重録音コーラスを
バックにして、鈴木の艶のあるボーカルが映えています。普段は一人多重録音のトラックに
山下自身がリードボーカルを載せているので、何とも斬新な感じがします。勿論名曲です。

どの作家、アレンジャーによる楽曲もクオリティーが高く、願わくはさらに良い音質で
本作を聴いてみたいという思いはあります。この時代ならではの打ち込みの無機質で透明なサウンドと、
生演奏によるグルーブが完璧なバランスでミックスされています。
メロウでシルキーな、都会の夜の音楽です。名盤だと思います。

Misty Mauve[Live]

おやすみロージー[Live]

おやすみロージー/山下達郎Ver.

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  1. 2014/10/06(月) 15:19:20|
  2. 鈴木雅之
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今日の一枚(340)

Album: N.E.W.S.
Artist: UNCHAIN
Genres: Soft Rock, Rock, AOR

EPSON235.jpg

京都府京丹後市出身の4人組ロックバンド。2005年デビュー。
私的名盤紹介では彼らの作品を何度か取り上げています(UNCHAINの項を参照)が、
今回も新譜が届きましたので、早速記事を書きたいと思います。

本作はオリコンのインディーズアルバムウィークリーで1位を獲得したということだそうで、
ファンの端くれとしては嬉しい限りです。前作の流れを汲んで、ハーモニーやリズムの
複雑化が進んだサウンドになるか、ソウルに接近するか、はたまたフュージョンやシティポップス
に接近するか…と思っていましたが、
当初の触れ込みはダンスミュージック寄りのサウンドと英語詞ということでしたので、
初期に戻るかと思っておりました。実際に聴いてみると、ドラムベースの作り出すグルーブは
確かにディスコライクなものもあったりしますが、全体にビート感の強いサウンドということらしく、
レゲエっぽいグルーブやスウィングのあった前作と比較すると、ストレートなものになった、
という印象があります。一方、ブラック寄りの楽曲もありながら、歪んだギターリフの流れる
ロックサウンドへと傾いた楽曲もバランスよく取り入れられていて、聴き飽きないような構成に
なっているようです。ダンサブルなUNCHAINと言えば、疾走感のある軽いリズムとロックっぽい
カッティングというイメージがありますが、本作ではもう少しテンポダウン、レイドバックした
ものへと変化していて、過去作のどれとも似ていないものを作っています。
2曲ごとにインストを挟んでおり、(これは東西南北の方角の頭文字を取って付け、
裏ジャケの記者会見を行うスーツ姿のメンバーとかけているダジャレなのでしょうが)
適度にクールダウンを図るような構成となっています。ライブではセットリストの中に
どうやってインストを取り入れていくのか、気になるところです。
毎年ツアーに行ったり作品を聴いていて感じるのは、特に吉田昇吾のドラムスの鋭さと
グルーブに対する感覚の成長だと思います。メンバー全員の演奏力も非常に高く、
(特にライブではロックバンドと思えないレベルの綺麗なコーラスを聴けます)
佐藤将文のカッティングやソロにも独特のタイム感があり、フレーズも癖があって、
個性的で素晴らしいのですが、前々作、前作、今作と聴いてきてドラムの作り出すグルーブの
多様さと器用さには驚かされています。付属のDVDには、東京キネマ倶楽部で行われた
アコースティックライブの模様が収録されています。
全ての楽曲がリアレンジされていて、より落ち着いた、レイドバックなアレンジに変更されています。

派手なキメから入っていく#1Spin My Headは初期を思わせる四つ打ちのダンスロックといった感覚で、
硬質で歪んだファンキーなカッティングにはワウを使いながら、
ツインギターのスリリングな絡みが楽しめます。疾走感を煽る16分ハイハットの刻みのバックで
ファンキーなカッティングが映えています。最高。
#2Easy Come, Easy Goは、ハンドクラップとキックでミニマルなリズムパターンを作るメロから、
ブルージーなテーマのメロディを繰り返してギターソロへと向かいます。
コーラスも少し嗄れ声になっていてソウルフルです。
冒頭のリフを変奏していきながら進むインストのスキット#3"NORTH"を挟んで、
#4b b...では右チャンネルのカッティングが流れるパターンミュージック的な冒頭部から、
うねりのあるベースラインとバックに張り付いたシンセの印象的なサビが異色な一曲。お気に入り。
#5The Grounds Heavenは、左右のチャンネルから交互に飛び出すカッティングと、
いつもより太い音のリードギターによるテーマを挟みながらファンキーに展開します。
冒頭のベースリフとギターがユニゾンし、緩くチューニングされたスネアロールをバッキングに
してブルージーな速弾きが唸りを上げるインストの#6#EAST"も面白いです。
へヴィなスネアが鳴る8ビートに一瞬青山純のメリーゴーラウンドでのプレイを思い浮かべてしまった
#7Lite The Truthは、パワフルなリズム隊の演奏の中でか弱いファルセットの歌唱が対照的です。
ユニゾンかましたギターソロとその後のカッティングの乾いた音、ボーカルの生々しい感じと言い、
極めて密室的な音響になっていてこれもまた今までの作風とは異なった曲です。
後半のギターソロではギターシンセのピコピコした音が堪りません。素晴らしい。
谷川正憲と佐藤将文によるツインボーカルに谷浩彰のラップまで飛び出す
#8Hybrid Loveに続いてインスト#9"WEST"は、フュージョンライクなドラムスと、
トレブルの出た饒舌で歯切れの良いベースラインをバックにギターは弾き倒しています。
こういう曲を聴くとthe band apartに近いと言われるのも分からないでもありません。
彼ららしい捻ったメロディのサビが特徴的でポップな#10Little Secret Paradeは、
メロでのソウルフルなコーラスと、ヴォリューム奏法の入ったポストロックっぽい
アプローチのイントロが楽しいです。少し翳りのあるサビから、バリバリした歪みの入った、
派手なギターソロが70s半ばのIsleyのようなファンクロックを思わせます。お気に入り。
最後のスキット#12"SOUTH"は、スネア連打を派手に入れたドラムスと、Venturesのような
クラシカルなサーフロックを思わせる単音カッティングが特徴的です。
#13Number-Oneは、リズムこそダンサブルでソリッドなものになっており、ギターのバッキングも
ロックしているのですが、サビはほぼ完全にソウルのそれになっていて、
見事に自分自身のスタイルに昇華しているようです。
(Marvin GayeとTammi Terrellのデュエット曲であり後にDianna Rossもカヴァーした、
Ain't No Mountain High Enough(1967)へのオマージュなのではないかと言うご指摘もありましたが、
なるほどその通りと思います。
「日本グルーヴチューン振興会」8/16付記事より)
間奏でのトークボックスのような音のバッキングも遊び心があっていいです。お気に入り。

今年のライブにも参加しますが、いつもはおとなしいお客さんの多いUNCHAINのツアーも、
ダンサブルな今作があれば盛り上がること間違いなし、と勝手に思っております。
どの作品にも共通したコンセプトがあってグルーブがあって、
彼らは自分にとって安心して付いていけるバンドであり続けています。勿論、お勧めです。

Spin My Head

N.E.W.S Official Trailer

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  1. 2014/10/05(日) 15:10:29|
  2. UNCHAIN
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プロフィール

Systematic Chaos

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強していました。(2011/04-2017/03)
無事医師免許取得し、2017年より研修医一年目として社会人生活が始まりました。
新しいことばかりでストレスも多いですが、相変わらず様々な音楽に触れております。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
自分にとって魅力的な音楽を、様々な視点で、
新旧洋邦を問わず掘り下げて参ります。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
7. ジャジーヒップホップ,
オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは65,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
①DENON PMA-50 + Zensor1 (USB-DACプリメインアンプ+スピーカー)
②iPod Classic+TEAC-HAp50(ヘッドフォンアンプ)
③ONKYO DP-X1A のいずれかで聴いています。
ブログとして記事を書くことを通じて
自分のライブラリと向き合ってみると、
相当趣味が偏ってるということを
痛感しています。
これから沢山の音楽に触れ、勉強していきたいです。
たまに医学関連の記事や日々の雑感を書いております。
※当ブログはリンクフリーです。
コメント下さると励みになります。
下さったら嬉しいです。
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