私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

今日の一枚(193)

Album: Melodies
Artist: 山下達郎
Genres: Pops, AOR, Soul, Funk

Melodies.jpg


本サイトでは4枚目の紹介になります。ファンクラブ会員として、幼いころから聴き続けてきた、
東京都豊島区出身のシンガー・ソングライター、音楽プロデューサー。1953年生まれ。
先日、発売30周年記念ということで新たにリマスターされ、ボーナストラックも加えて
再発されたばかりの1983年作の10th。RCA/AIRを離れ、Moonへと移籍してから1枚目のアルバムです。
Ride On TimeやFor Youでのスマッシュ・ヒットで、当時流行していたリゾート・ミュージック路線の
作品を世に送り出したことで、本人の意図とは反してアウトドアでのドライブ・ミュージックとして
「夏だ海だタツローだ」というキャッチコピーが定着しもてはやされる中、
商業音楽として自分の音楽がほんの一時的な発散の道具として消費されることを恐れた彼は、
当時契約問題を抱えていた事務所を離れ、プロデューサーの小杉理宇造氏とともに新たな事務所
(ムーン・アルファレコード)を設立し、移籍することになります。
それまでの作風から一転して演奏面でも16ビートの多用されることの多かった以前の作品から
8ビートのグルーブを追及したり、青山純(Dr)や伊藤広規(B)をのリズム隊を始めとする
スタジオ・ミュージシャンを用いずに全ての楽器を一人で多重録音したりしています。
あるいは#9黙想のようにピアノ弾き語りにコーラスを加えたバラードにGlen Campbellのカヴァーと
いった、初期を思わせるような作風の楽曲も収録されていたりと、
新たな試みが散りばめられた非常に興味深い作品と言えると思います。
フュージョン色の強かったFor Youに比べて、本作はフィラデルフィアやシカゴのソウル、
或いはロック色の強い楽曲が多く収録されていることからも、Sugar Babe時代や
デビュー当初のCircus TownやSpacyの頃の作風への回帰とも取れる傾向が見られます。
それまで吉田美奈子氏に任せることも多かった作詞を、すべて彼自身が行ったという点も、
本作を考える上で重要なことかと思います。
(#7Blue MidnightはFor Youの際にレコーディングされたものなので吉田氏の作詞になっています)
Melodiesの時点ではまだ山下氏本人の一人の人間としての主義や哲学が語られるような
メッセージ性はあまり見られず、心象風景を描いたような抽象的なものが大半を占めていますが、
明らかにそれまでの自分の音楽的指向を打ち破ろうという強い意志が感じられます。
彼のキャリアにとって、とてつもなく大きな分水嶺になる作品であると言って間違いないと思います。
そして彼の無数にある楽曲のうちで最も大きなヒットとなった#10クリスマス・イブも
アルバムの最後に、ひっそりと収録されています。
それだけに、本作のリマスターはファンたちにとって待望のものであり、(ライブアルバムのJoyも
リマスター再発を期待されている一枚だと思います)他ならぬ筆者も心から待ち望んでいたものでした。
音質向上は素晴らしいものがあり、99年盤のCDやベスト盤と比較して非常にクリアで抜けの良い
音質になっています。
CDには本人による詳細な曲目紹介が収録されていますので、出来れば購入して頂いてそちらを
ご覧になって頂きたく思いますので、手短に紹介します。
#1悲しみのJody(She Was Crying)は、当時にしては珍しい8ビートのロックナンバーで、
サックス・ソロ以外は全ての楽器が彼の手によって演奏されています。
アルバムの一曲目に、8ビートで失恋を題材にした歌をファルセットで歌うという、
正にそれまでのサウンドからの脱却を表していると言えると思います。
得意のファルセットと透き通ったメロウなコーラス、へヴィ―なドラムス(流石に元ドラマーです)
が生み出すアナログな肌触りで、サウンド的にも異色な一曲だと思います。
#2高気圧ガールは、軽やかなコーラスワークとパーカッションから始まり、
青山純(Dr)がいつものあのぼすっとした音で叩き出します。
コーラスのリフレインやパーカッション、タイトなリズム隊が合わさってポリリズム特有の
浮遊感を湛えています。最後のロングトーンは圧巻です。素晴らしい。
#3夜翔(Night-Fly)は全編ファルセットで歌われるシカゴのスウィート・ソウル風の一曲です。
サビ前の大仰なキメが時代を感じさせます。
#4Guess I'm Dumbは1965年に発表されたGlen Campbellのシングルのカヴァー。
リバーブの掛かったようなコーラスとストリングスが緩やかなグルーブを生み出します。
#5ひとときはアコギのイントロから始まりフォーキーでニューヨーク風のシンプルなサウンドと、
マイナーな進行が印象的です。シンセベースの音色もべったりせず綺麗に溶け込んでいます。
#6メリー・ゴー・ラウンドは、Totoの項でも話しましたSF小説作家のレイ・ブラッドベリ
の作品から影響を受けて書かれたという、廃墟となった遊園地に忍び込むというファンタジックな歌詞が
不思議な魅力を放っています。彼の書いた歌詞の中でも最も好きなものの一つです。
ファンキーなベースラインとへヴィ―なドラムス、テレキャスのカッティングが作る
鉄壁のアンサンブルにスペイシーなコーラスが独特な焦燥感を感じさせます。
#7Blue Midnightは、佐藤博(Piano, Key)のジャジーで都会的なフレージングと、
土岐英史(Sax)のソロに岡沢章のベースと、初期の作品を思わせる音像です。
柔らかいストリングスがリラクシングで聴き所です。
#8あしおとは、ファンの中で隠れた名曲として挙げられることの多い一曲ですが、
シカゴ・ソウル調でノスタルジックな歌メロと、 枯れた音色のギターソロが良い味出しています。
#9黙想はピアノの弾き語りにコーラスを加えて仕上げた短い一曲ですが、
この曲やSpacy収録の「朝のような夕暮れ」のような、どことない不安を滲ませる曲調のバラードは
個人的に大好きです。こんな曲また作ってくれたら良いなと正直思います。
#10クリスマス・イブはもう説明不要の名曲だと思いますが、発売から5年後に
JR東海のCMソングとして採用されてから有名になったというなんとも話題の尽きない一曲です。
バロック音楽的なコード進行を奏でるシンセや音域の広く複雑なコーラスワークをバックに、
リズム隊のドライブ感溢れる演奏が、この曲がロックンロールであることを強く認識させてくれます。
一人のミュージシャンとして仕上げたいと思う理想の作品は、
リスナーが求めるものと一致するとは限りません。
そういった意味で、ヒット曲を出しながらも、自分の真に作りたい音楽を作り、
発表しライブを行い続けているという意味で、彼は本当に本当に貴重な存在ですし、
不世出の才能であると言って私は全く疑いません。
彼の作品にカヴァーが多いことからも示しているように、常に多くの作品に触れていく中で
自分にとっての本物を見つけ出し、消化し作品にしていくという、
神経質で職人的な性質あってこそと言えるかもしれません。
この態度は特に楽曲のアレンジの、各楽器楽器に対する緻密さや、録音状態の良さに最も現れています。
彼の音楽へのひたむきで真摯な姿を見て、これからも多くの音楽に触れ、
ポップスの行方を見つめて行きたいと、本作を聴き直して、強くそう思いました。

悲しみのJODY(She Was Crying)

高気圧ガール

Guess I'm Dumb

ひととき

メリー・ゴー・ラウンド

あしおと

黙想

クリスマス・イブ
関連記事
スポンサーサイト

この記事をはてなブックマークに追加

  1. 2013/09/06(金) 01:16:02|
  2. 山下達郎
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<今日の一枚(194) | ホーム | 今日の一枚(192)>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://grooveisalliwant.blog.fc2.com/tb.php/214-68853751
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強しています。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
7. ジャジーヒップホップ,
オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは50,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
iPod ClassicにTEAC-HAp50またはATH-PHA31i(ポータブルヘッドフォンアンプ)を挿して聴いています。
ブログとして記事を書くことを通じて
自分のライブラリと向き合ってみると、
相当趣味が偏ってるということを
痛感しています。
これから沢山の音楽に触れ、勉強していきたいです。
たまに医学関連の記事や日々の雑感を書いております。
※当ブログはリンクフリーです。
コメント下さると励みになります。
下さったら嬉しいです。
※Twitterもやっております。
アカウント名はprivategrooveです。
https://twitter.com/privategroove
こちらでもおすすめの音楽など情報を流しております!
フォロー下さると嬉しいです。
可能な限りフォローバック、コメントしに参ります。

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

総閲覧者数(ユニークアクセス)

アクセスカウンター(PV数, 2013/12/26より集計)

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

にほんブログ村 CDレビュー

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村

Feedly(RSSリーダー)で「私的名盤紹介」を読む

RSSリーダーとは、Google, Feedlyなど複数あるアプリまたはサイトを用いて自身で登録したブログの更新を自動で確認し、さらにブログ記事をテキストと画像、リンクのみの軽い状態で見ることができるツールです。 管理人も便利ですので積極的に使っております。 Feedlyにはスマホ向けアプリもありますが、PCはブラウザで操作でき動作も軽いため使っております。

follow us in feedly

「私的名盤紹介」管理人Twitterをフォローする

私的名盤紹介トップページをはてなブックマークに登録する

「私的名盤紹介」トップページをはてなブックマークに追加

「私的名盤紹介」管理人によるはてなブックマークを見る

管理人が普段見ている音楽系サイトで、気になる記事について、日々 「はてなブックマーク」を使ってコメントを付け、まとめております。 当サイトであまり取り扱わない音楽ジャンルの記事、年間ベスト、評論など雑多に取り扱っています。フォロー頂けると嬉しいです。

私的名盤紹介はてなブックマーク

「私的名盤紹介」管理人Twitter

TweetsWind

にほんブログ村ランキング(CD Review)

もし記事を楽しんでいただけましたら、お手数ですが 下の「このブログに投票」のところをクリックしていただけると大変嬉しいです。 投票はランキングに反映されます。

RSSリンクの表示

Ninja Tools(アクセス解析)

検索フォーム

相互リンク 音楽系レビューサイト

このブログをリンクに追加する

現在の閲覧者数

現在の閲覧者数: