私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

今日の一枚(259)

Album: Ⅲ(Melt)
Artist: Peter Gabriel
Genres: Progressive Rock,New Wave, Noise

Melt.jpg


イングランド、サリー州ウォーキング出身のシンガーソングライター、ボーカリスト。
1950年生まれ。1967年から1975年の間、伝説的なプログレッシブ・ロックバンドである
Genesisで結成当初からフロントマンとして活躍し、ライブパフォーマンスにおいて
その奇抜な衣装や照明演出、メイクといった視覚効果での演出や演劇性を取り入れた
斬新なステージングを行ったことでも知られています。
1974年のコンセプトアルバム、The Lamb Lies Down on BroadwayではGabrielが中心となって
作詞を行い、なんとライオンの衣装を着てライブを行っています。
その当時からディレクターのWilliam Friedkinと映画音楽の制作に取り組むため
一時的にバンドを離れたりと、他のメンバーとの音楽性の違いもあり、
75年にGenesisから脱退することになります。
ソロ活動開始後は、ワールドミュージックと、当時導入され始めていたアナログ・シンセサイザーを
用いた電子音楽への接近が見られ、本作では最新鋭の技術であったGate Reverbと言われる
リヴァーヴを極限まで小さくするドラムエフェクトを初めて用いています。
このエフェクトを使った曲では、元GenesisのPhil Collinsが叩いています。
(#5Family Snapshotではスネアドラムのみ、#10Bikoではスルドというサンバやボサノヴァなどの
ブラジル音楽で使われる打楽器を用いています。)
他にも当時はまだThe Jamに在籍していたPaul Wellerが
#6And Through the Wire でギタリストとして参加しています。
コーラスにはイングランドのアートロックを代表するシンガーソングライターであるKate Bush、
King CrimsonのギタリストでありリーダーであるRobert Frippなど、
超一流のミュージシャンがこぞって参加しています。
プロデュースには後に5度グラミー賞を受賞することになる、当時弱冠25歳の
Steve Lilywhite(U2, The Rolling Stones, Talking Heads, XTCなど多数)を起用し、
アフリカ民族音楽と、ニューウェーブ、ノイズミュージックをリアルタイムに
経験したロックの極めて高度な融合が試みられています。
リズムトラックには一切の金物(シンバル類)の音が入っていない点も特徴的だと思います。
アルバムジャケットはPink Floydでお馴染みのHipgnosisが担当しています。
元々彼の1stから4thまでの作品にはアルバムにタイトルがついておらず、この顔の半分が
溶け出したようなジャケットのイメージからMeltと呼ばれています。1980年作のソロ3rd。
#1Intruderはゲートリヴァーヴの掛かったひたすらにシンプルなパターンを重く叩くドラムスに
合わせて、低音の響きが豊かなGabrielのボーカルが訥々と歌います。
短く音の切られたギターのフレーズと、掛け声を発する雄雄しい男たちの声が
不気味さを演出しています。後半の悲痛で叫ぶようなボーカリゼーションは圧巻です。
サックスのリフレインとノイズ、Kate Bushのコーラスで幕を開ける#2No Self Controlは、
歌い上げるメロディには奇妙なポップネスがありつつも、巨大な音圧で迫ってくるタムの音が
圧倒的な存在感を放っています。最高にクールです。
1分20秒のサックスによるメロウなバラード#3Startを挟んで、
#4I Don't RememberではRobert Frippの激しくフランジャーの掛かったギターのバッキングと、
Tony Levinのチャップマン・スティックの生み出す太くうねりのあるベースラインが作る
ハードロック的なグルーブの中に、種々のノイズやエフェクトを施したコーラスが
上手く混じりこんでいて異様な高揚感を与えてくれます。名曲。
キーボード弾き語りで静かに始まる#5Family Snapshotは、途中からバンドが入ってきて
盛り上がっていきます。メロディの綺麗さは本作中でも随一です。
アンビエントな電子音から一気にパンクロックに変貌する#6And Through The Wireは、
若き日のPaul Wellerのギターリフが聴き所です。金物の音が無いこともありながら、
メロディやコーラスのハーモニーは完全にロックになりきらずエスニックな空気を残しています。
#7Games Without Frontiersは、アンビエントなイントロと、耳に残るコーラスのリフレインが
生々しく鳴る背景で、サスティーンの効いたギターが異彩を放ちます。
よく動くベースラインとギターのストロークの軽快さと、
ドラムスの重さが対照的な#8Not One Of Usも、音が塊になって流れてくるような感じではなく
各楽器の音が分離されて聴こえてくるアレンジになっています。
南アフリカの反アパルトヘイト活動家であり、壮絶な拷問を受け77年に30歳の若さで亡くなった
Steve Bikoへの追悼の意を込めて制作された#10Bikoは、Bikoの理不尽な死への怒りと悲しみ、
彼を殺しても反アパルトヘイトの活動は止むことは無いという強いメッセージが込められています。
Phil Collinsの叩くスルドのアフリカンなリズムと、極限にまで削ぎ落とされたサウンドが、
神聖さを感じさせているのかもしれません。
現代にいたるまで極めて怪しげな魅力と新鮮さを放ち続けていながらも、
ムーブメントとしては非常に短い時間で形骸化せざるを得なかった
ニューウェーブの誕生は、それまで様式美の極致であった
プログレッシブ・ロックを生業としていた彼自身に強烈な創作意欲を注ぎ込んだに違いありません。
そういった意味で、ニューウェーブ通過後のロックのクロスオーバーとしてのサウンド面でも、
不法侵入者や暗殺者の心情を描くことを通じて、歪曲した民主主義へのアンチテーゼを反映した、
悲痛さを滲ませる詞世界の面でも、80年という時代を、彼が生きていたからこそ生まれ得た奇跡的な
作品であると考えて間違いないと思います。

Intruder

No Self Control

I Don't Remember

Family Snapshot

Biko
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  1. 2014/02/20(木) 02:48:12|
  2. Peter Gabriel
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

ピーター・ガブリエルのこの頃の作品は、
ヒリヒリしていて軽く聴けるものではありませんが、
久しぶりに聴くとかっこいいですね。
民族音楽由来のプリミティヴなリズムが好きです。

ベルリンの頃のデヴィッド・ボウイにも通じる部分があるな、と感じました。
  1. 2014/02/21(金) 20:42:50 |
  2. URL |
  3. GAOHEWGII #-
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし

David Boweに近いというのはとても納得できます。
5thのSoみたいにポップな作品も好きですが、
一番聴くのはやっぱりこの3rdです。
特に頭4曲の世界観は唯一無二だと思います。
  1. 2014/02/22(土) 01:13:33 |
  2. URL |
  3. Systematic Chaos #-
  4. [ 編集 ]

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Systematic Chaos

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強していました。(2011/04-2017/03)
無事医師免許取得し、2017年より研修医一年目として社会人生活が始まりました。
新しいことばかりでストレスも多いですが、相変わらず様々な音楽に触れております。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
自分にとって魅力的な音楽を、様々な視点で、
新旧洋邦を問わず掘り下げて参ります。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
7. ジャジーヒップホップ,
オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは65,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
iPod ClassicにTEAC-HAp50またはATH-PHA31i(ポータブルヘッドフォンアンプ)を挿して聴いています。
ブログとして記事を書くことを通じて
自分のライブラリと向き合ってみると、
相当趣味が偏ってるということを
痛感しています。
これから沢山の音楽に触れ、勉強していきたいです。
たまに医学関連の記事や日々の雑感を書いております。
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