私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

今日の一枚(293)

Album: No Beginning No End
Artist: Jose James
Genres: Soul, Jazz, Hip Hop, R&B

No Beginning No End


アメリカ、ミネソタ州ミネアポリス出身のシンガーソングライター、作曲家。
1978年生まれ。アイルランド系の母と、ミュージシャンのパナマ人の父の間に
生まれた彼は、高校生時代にTribe Cold Questといったようなヒップホップや、
ラジオで聴いたDuke EllingtonのTake the 'A' Trainなどのジャズにのめり込むように
なり、高校卒業後はニューヨークへと渡り、音楽活動を開始することとなります。
しかしながらなかなかデビューへのきっかけをつかめず、
ミネアポリスに暫くの間帰郷し、3年間ほど作詞を独学で学んでいたようです。
彼のデビューのきっかけは、2004年に行われた
Thelonious Monk International Vocal Competitionというボーカリストのための
オーディションに出場したことでした。このオーディションで、
ニューヨークにあるニュースクール大学のThe New School for Jazz and
Contemporary Musicへのスカラーシップを獲得し、ジャズを専攻として音楽を学ぶ
こととなりました。その2年後、ロンドンで行われた、
2006 London International Jazz Competition For Vocalistsへと参加するため
イギリスに渡り、ロンドンのRivington StreetにあるクラブであるClub Cargoで
セッションを行っていた際に、90sにAcid Jazzレーベルを設立した、
UKクラブミュージックの最重要人物の一人であるGilles Petersonに出会い、
自主制作のEPを手渡すことに成功します。
Gilles Petersonは彼の声に惹きつけられ、彼のレーベルであるBrownswood Labelと
すぐに契約を結ぶこととなりました。こうして2008年にデビューを決めた彼は、
その後2010年にはクラブジャズ系のレーベルであるimpulse!からも作品をリリース、
そして2012年には知る人ぞ知るジャズの名門、Blue Noteから本作、
2013年作の3rdアルバムを発表するに至ります。
元々Hiphopやクラブミュージック、ダンスミュージック界隈で名の通っていた彼は、
大ベテランのジャズピアニストであり、Charlie Parkerのバンドや
日本人では秋吉敏子や山中千尋への参加でも知られるJunior Mance,
Duke Ellingtonバンドのドラマーであり、自身のバンドからJim HallやEric Dolphy
などを輩出した、ウェストコーストジャズを代表する存在であるChico Hamilton,
巨人John Coltraneのトリオ、Wayne ShorterやHank Mobleyとのバンドでも知られる
大ピアニスト、McCoy Tynerらとのコラボレーションも行っており、
将来を嘱望されているヴォーカリストであることが窺えます。
こうしたジャズメンとのコラボレーションが目立ちますが、
実際に彼のソロ作品の音楽性としては、ジャズ色はそれほど濃くはなく、
彼の声質も手伝ってむしろ暖かみのあるソウル寄りの音楽性を有している、
と考えてよいと思います。
録音やアレンジは確実に重低音を重視したものとなっており、
リズムコンシャスでヒップホップを通過したソリッドなグルーブがアルバム全体を
流れています。しかしながら、さすがはBlue NoteのCDということもあって、
音質が非常に良く、低音は良く出ていますが決してしつこくありません。
00年代後半から10年代にかけてのポスト・ダブステップやエレクトロニカを
通過したモダンな音だと感じました。
本作には同じBlue Noteに所属するアーティストに加え、多数のゲストを迎えて
制作されています。有名どころではピアニストとしてRobert Glasper(#4)が、
同じくGlasper周辺ではThe Robert Glasper Experimentで叩いているChris Dave(Dr)などが
参加しています。
プロデュースはD'Angeloのバックバンドでベーシストを務めたPino Palladinoが行っています。
彼のベースプレイも本作の重要なポイントになっています。
#1It's All Over Your Bodyは、リムショットの乾いた音で刻まれるビートが不安定に
揺らぐ中で、短く音の切られたベースラインが浮遊感のあるグルーブを作ります。
Kris Bowersのピアノは非常にドリーミーで、ジャズと言うよりはR&Bと言った方が良いのかも
しれません。#2Sword + Gunは、淡々となり続けるハンドクラップと、キックの重い音の中で、
ホーンの入り方は短いリフレインを繰り返すようなフレーズになっており、
やはりリズムコンシャスな作りです。ゲストのHindi Zahraのボーカルは、低音の艶めきと
ハスキーさ、気怠い歌い方が洒脱です。
全二曲よりもメロディのはっきりしたキャッチ―なソウルに仕上がっている#3Troubleは、
エレピのあの独特の揺れ感のある妖しいフレージングと、ファンキーでありながら
抑制されたホーンがダークな雰囲気を演出します。最高。
どう聴いてもRobert Glasperと言う感じのイントロのフレーズで一気に掴まれる
#4Vanguardは、Chris Daveの絶妙にハネたリズムのドラムスが、
細かいアクセントの変化やフィルで曲のグルーブを決定づけています。お気に入り。
アコギの訥々としたストロークとオルガンの響きが暖かいオーガニックなソウルの
#5Come To My Doorは、後半のコーラスの生々しさが鳥肌ものです。これもお気に入り。
Emily Kingとのコラボレーション#6Heaven On The Groundは、浮遊感のある彼女のコーラスが、
ハッキリとしたテーマのメロディに得も言われぬ複雑さを与えています。
ベースもローがしっかりと出た音ですが、空間に滲み出るようなモコモコとした音で
気持ち良いです。
テンポを落とした3拍子の一曲#7Do You Feelは、サビにかけてボーカルが熱を帯びていき、
豊かな響きを維持しながら、キメと共にまた囁くように…という
抑揚の付いたボーカリゼーションは見事です。ピアノソロは完全にジャズですが、
フレーズの繰り返しが多くブルージーなフィーリングがあります。
#8Make It Rightは、Richard Spavenの叩きだすソリッドで重さのあり、
ファンクっぽいグルーブのあるドラムスと、Jeremy Mostのギターの、消え入りそうで、
弦の擦れるアタックがトレブリーで細いトーンの中に混じり合ったようなプレイは
非の打ちどころがないと思います。インスト部分ではベースソロもあり、
同じテーマのフレーズをリズムの中に上手く収めて統一感を出しています。
本作の中でもとりわけ肉体的な一曲。お気に入り。
表題曲の#10No Beginning No Endは、空間の様々な位置に定位されたコーラスが、
彼の息遣いまで忠実に再現し、もたれかかったリズムで進行していきます。
リズムチェンジの後はハイハットの煌びやかな音、Pino Palladinoのベースの
ハイフレットの音が堪りません。
ピアノ弾き語りを中心としてストリングスを加えた#11Tomorrowはどこまでも静かで、
下降していくメロディラインが切なさを演出します。
最後は力強くソウルフルなロングトーンで締めくくります。
Robert Glasperにも言えることですが、これがジャズかどうかと言われると、
ビートの配置の仕方はヒップホップ的で、エレピの音やホーンの使い方はソウル色が強い訳で、
むしろそうした音楽に近いと考えて良いでしょう。ただ歌のメロディやハーモニーには
確実にジャズがあり、ネオソウルの新たな方向性を示した作品として、
非常に価値ある作品だと思います。

Trouble

Vanguard

Come To My Door

Heaven On The Ground

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  1. 2014/05/14(水) 00:59:37|
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Systematic Chaos

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強していました。(2011/04-2017/03)
無事医師免許取得し、2017年より研修医一年目として社会人生活が始まりました。
新しいことばかりでストレスも多いですが、相変わらず様々な音楽に触れております。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
自分にとって魅力的な音楽を、様々な視点で、
新旧洋邦を問わず掘り下げて参ります。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
7. ジャジーヒップホップ,
オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは65,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
①DENON PMA-50 + Zensor1 (USB-DACプリメインアンプ+スピーカー)
②iPod Classic+TEAC-HAp50(ヘッドフォンアンプ)
③ONKYO DP-X1A のいずれかで聴いています。
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