私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

今日の一枚(34)

Album: The Dark Side Of The Moon
Artist: Pink Floyd
the dark side of the moon


今回は、アルバムの音楽性についてではなく横道に逸れますが、
「The Dark Side Of The Moon」(邦題:「狂気」)のジャケット(下図)について考えてみたいと思います。 
このアルバムの、音楽作品としてのテーマと、この、謎のプリズムが虹に照らし出されている様には、関連があるはずです。この絵を解釈するには、音楽作品としての、あるいは歌詞に込められたコンセプトを読み解くことが役に立つと考えられます。この作品は、メンバーであるGeorge Roger Waters(1943~)のほぼ一人によって作詞・作曲され、コンセプトも彼の発案によるものと考えられます。ウォーターズによれば、Dark Side Of The Moonのコンセプトは、「人間の内面に潜む暗い感情=『月の裏側』を描き出すこと」であると述べています。月の裏側は、地球に住んでいる私たちは見ることができない訳ですから、人間の内面や心理を描き出すメタファーとなっているのでしょう。 
次に、この作品には、歌詞にも哲学的な要素が多分に含められていると思います。絵画の分析が主題であるため、全文を解釈するようなことは控えますが、例えば、最後のトラックとして収録されている、Eclipseという曲があります。この曲の最後には、以下の意味深な台詞が入っています。
There is no dark side of the moon really.  Matter of fact it's all dark.
そのまま逐語訳的に解釈すれば、「本当は、月の光の当たらない側なんてありはしない。なぜかと言えば、全ては闇なのだから。」となるのでしょう。この言葉には、人間の作り出してきた社会・文化や、自然も含めた他者への「認識」や記号的な意味づけといった、「秩序」そのものに対して、疑念を抱かせるような力があると感じました。このAllという言葉が、人間存在(肉体と精神が混然一体となった)の全てを指しているのかどうか定かではありません。 
しかし、確かに、寿命の限られた私たちは肉体に縛られていますから、自分の内面を遍く照らし出すどころか、無意識=Darkという部分を抱えながら生きるしかありません。
だとすれば、私たちの、自己に対する解釈やアイデンティティーは、必然的に不完全なものとしかなりえませんし、「全ては闇に包まれている」と言えそうです。 
曲の中には、「時間」に注目したもの(有限の存在である人間が、「時間とは何か」考えるも、答えを見つけ出せずに、最期は絶望して一生を終える)や、「金」(生きることへの思索など目もくれず、自分の利益のみ考えている一人の金持ち)をテーマとしたものなどがあります。さながら、社会の縮図が幻想的でサイケデリックに(音楽的にはブルースの影響が強く感じられますが)描き出されているかのようです。 
以上のようなことを踏まえて、この絵に描かれているもの一つ一つを見ていきたいと思います。 
まず、注目すべきは真っ黒な背景でしょう。そして、その中に鎮座するプリズム。この絵を生み出したStorm Thorgerson(1944~)は、エジプトのピラミッドを見たとき、このジャケットの着想を得たと言ったそうです。三角形というと、私の心象では、何か「不完全なるもの」を表しているように感じます。(それに比べて、円=「完全なるもの」のイメージがあります。)黒い背景は、人間の内なる世界の広がりを指しているようです。Dark=無意識と考えるならば、有限で不完全な存在である人間(三角形)が、無限の闇の中にぼんやりと浮かび上がっていると言えるでしょうか。 
では、三角形にあたっている「光」は何を指しているのでしょうか。初め、絵の左側では白い一筋の光だったのが、「三角形」を出ていくのと同時に、虹色の鮮やかな光線となり、広がっていきます。この「三角形」が、「一人の人間の内面世界」を示唆しているのだとしたら、それに向かって入ってくる「光」は、何者かは判らないけれども、「他者」を表しているに違いないと判断できます。「他者」(人間とは限らない)と「私」はクロスオーバーし、そうすることによって互いに影響を与え合います。こうして、一つの光は七色となり、闇の中に広がっていきます。
今までは、中央やや上にある白い物体を「三角形」と呼んできましたが、光を分光するための「プリズム」と捉えることもできるでしょう。そう考えると、また新たな解釈が生まれてきます。「意味を持たなかった外なる光」が、「不完全なる人間」の中を通ることによって「屈折」し、屈折率(波長)の異なる色の光として「意味づけ」を行われ、外の世界へとアウトプットされていくといった具合です。 
ということは、もし、この空間に「プリズム」がなかったら、どうなるでしょう。やって来た一筋の光は、入る場所がないため、当然、屈折することなく、永遠に直進していきます。「色」も付きません。
そう考えると、この絵に含まれているメッセージは、案外前向きなものであるようにも思えてきます。「不完全な人間」だからこそ、私たちは、「意味づけ」をおこなう=他者と関わり合うのであり、鮮やかな色が生み出されていくのです。
ここに、「芸術とは如何なる意義を持っているのか」という深遠な問いへのヒントが隠されているように感じます。古代~中世では、「人間」と、唯一絶対なる「神」との間のやり取りとして、芸術は存在していました。(無論、それだけのために古代~中世の芸術があったなどとは決して言いませんが)近代では、機械論的自然観に則り、主体と客体を完全に分離した(デカルト的な)理性と人格を備えた「自我」がまずあり、「対象」を観察するため、写実的な表現がもてはやされました。現代では、盛んに肉体と精神の相互作用が論じられ(心身相関)、「他者」と「自己」の壁はどんどん曖昧なものとなっています。もはや「絶対的な真理など存在せず」、権力の構造によって個人が規定されるといったような思想までも台頭することになりました。(「無意識」というものを仮定する時点で、構造主義的であると言わざるを得ませんでした。)
ただ、これらの思想にも、共通点があります。それは「関わりあい」というものの存在です。ある時は「人」と「神」、「主体」と「客体」、「権力」と「個人」と言ったようにです。 
そういうわけで、芸術とは「何か」と「何か」を結びつけるもの、という、なんとも意味不明なイメージを、私は抱いています。つまり、芸術は、宇宙空間の、無風な、何億光年も離れた場所でひっそりと、一人の造物主の力によって生みだされたのではないだろうという事です。私たちは、日常で辛い事や楽しいことを経験しながら一生を過ごしていきますが、例えば、ふとした瞬間にiPodで音楽を聴いたとします。その瞬間に、「音楽」と「私」は繋がりを持ち、何らかの影響を受けることになります。 
勿論こういった事件は、何も「芸術」などという大仰なフォーマットに限って経験されるわけではありません。ですから、芸術は、こういった「純化された経験」を人に与えるような、結晶化されたものではないか、と私は思っているのです。 
人は芸術に触れたり、それを生み出したりすることによって、「関わりあい」を持ち、影響を受け合い、人生を淡々と死に向かって過ごしていく。そういった意味で、芸術は、私たちの人生に肉薄するような場所に「ある」ものだと、私は信じています。

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  1. 2012/12/25(火) 02:42:45|
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独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強しています。
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