私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

今日の一枚(342)

Album: awakening
Artist: 佐藤博
Genres: AOR, Pops, Fusion

Awakening.jpg

鹿児島県南九州市生まれ、京都府京都市出身の日本のシンガーソングライター、マルチプレーヤー、
ピアニスト、キーボーディスト、プログラマー、エンジニア、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
1947年生まれ。2012年没。

寺院の子として生まれた彼は、中学生の頃からギター、ベース、ドラムを習得し、
高校生時代から自宅で一人多重録音に嵌り、オープンリールのトラックレコーダーで作曲を始めます。
フュージョン~AOR、ポップス界隈では日本を代表するスタジオミュージシャンとしても
知られる彼ですが、ピアノに関しては20歳からの独学で習得したものということらしく、
恐るべき努力と才能の人だと思います。70年代初頭から上田正樹のようなブルース系の
シンガーソングライターのバッキングを務めるようになり、75年には鈴木茂によって結成された
ロックバンドであるハックルバック(メンバーは鈴木茂(Vo, G), 佐藤博(Key, Vo), 田中章弘(B),
林敏明(Dr)の4人。1972年のはっぴいえんど解散以後のキャラメルママの結成、
その後細野晴臣を中心としたティンパンアレーへの改名(74年)と躍進の中で、鈴木がソロアルバム、
Band Wagonを渡米して制作し、その帰国後、アルバムの発売直前に活動を開始、一年間のみの
バンドとなりました。)のメンバー、ティンパンアレーのメンバーとしてライブを行うようになります。
ハックルバック解散後からは、RCA/AIR期の山下達郎や吉田美奈子、細野晴臣、大瀧詠一、
高中正義、南佳孝、松原正樹、ブレッド&バター、竹内まりや、アンルイスなどの作品に
ピアニスト、キーボーディストとして多数録音、ライブに参加するようになり、
76年には吉田美奈子の代表作となったFlapper(吉田美奈子の項を参照)の
サウンドプロデュースを手掛けています。同年にはソロアルバムを発売し、順調に
ソロキャリアを歩んでいきますが、79年の南佳孝/Speak Lowのレコーディングを最後にして、
80年に単身ロサンゼルスへと渡り、アルファレコードとアーティスト兼プロデューサーとして契約、
本作は渡米中の1982年に発表された4th。

ギター(松木恒秀、山下達郎、鳥山雄司)と
ボーカル(Wendy Matthews)以外の録音は基本的に彼一人で行っており、
ドラムスは当時最新鋭のサンプリング型ドラムマシンであり、わずか500台しか生産されなかった
LINN Electronics社のLINN-LM1というドラムマシンを用いて録音されています。
このリズムマシンとの出会いは佐藤氏にとって非常に大きなもので、これをきっかけに、
これがあれば自分の頭の中で鳴っている音を一人多重録音で完璧に鳴らせる、ということもあって、
日本への帰国を決意することになります。

帰国後はソロ活動の他に、テレビ番組やCMの音楽制作を
多数行いつつ、作曲家としての楽曲提供や、スタジオミュージシャンとして山下達郎、
吉田美奈子に加えて角松敏生(楽曲提供も行っています)、杏里などの作品で縦横無尽の活躍を見せます。
この頃(80年代中ごろ)からコンピューターによる打込みを楽曲制作に用いるようになり、
MIDI規格の導入とその使用においても先駆者と目されています。
90年には自らのスタジオであるStudio Saraを作り、オリジナルアルバムはここでレコーディングを
行われるようになります。00年代には本作を始め、初期作品のリマスターとCD再発を行い、
不定期のライブ活動を行っています。2008年には第50回レコード大賞を受賞した
青山テルマ/そばにいるねのアレンジ、ミックス、マスタリングを行ったり、
他にも日本のポップス界隈ではSoulJa、吉見一星などのプロデュースを行うなどしていましたが、
2012年に解離性大動脈瘤で急死となってしまいました。65歳での急逝ということで、
非常に残念でならないと思いますが、彼の残した作品、参加した作品は無数にあり、
ブライトで煌びやかな音色とスウィング感覚、優れたアドリブ能力と、
ジャジーで複雑なコードワーク、ブラックミュージックの影響色濃いメロウなソロなど、
どの点を取っても、彼のキーボードプレイは個性的で都会的で、一聴して彼のものだと分かる
プレイだと思います。

穏やかに打ち寄せる波のSEとブライトなタッチのピアノが静かに鳴り、
コズミックでどこか東洋的な雰囲気を醸すシンセが印象的なインスト#1Awakeningから始まり、
シームレスに繋がるツインボーカルの#2You're My Babyは、太く低音の出たベースの歯切れの
良いグルーブが最高です。シンセのバッキングはやはりどこかニューウェーブな香りがします。
打込みドラムスの音圧が上がったスロウなバラードの#3Blue And Moody Musicは、
エフェクトが掛けられたコーラスのデジタルな感覚と、極めて無機質なハットの刻みの
機械的なトラック中で、ハーモニクスの美しいギターや煌めくようなピアノが際立っています。お気に入り。
ポップでWendy Matthewsのソウルフルなボーカルが堪能できる#4Only A Love Affairは、
松木恒秀の歯切れの良く音数の絞られたカッティングと、佐藤のメロウなピアノソロが白眉です。素晴らしい。
重いタムを絡めたリズムパターンが印象的なインストの#5Love And Peaceは、
ハイファイで輪郭のはっきりしたエレピの軽やかなトラックの上で、
ブルージーなギターが唸りを上げています。
The Beatlesのカバー#6From Me To Youは、透き通ったコーラスワークを見せながら、
大仰なドラムソロとうねうねしたシンセベースでファンキーに仕上がっています。
歪んだ、太いトーンのギターは鳥山雄司のものと思われます。これもお気に入り。
再びデュエットによるバラードの#7I Can't Waitは、松木恒秀の硬質なリズムギターと、
遠くで鳴っているストリングス系のシンセ、淡々とした打込みドラムスの叩き出すグルーブに、
スラップのような音を取り入れたベースラインがブラックネスを与えています。最高。
YMOが同時代的にやっていたようなオリエンタルなシンセのフレーズやヴォコーダーを使ったコーラスが
ニューウェーブ的な#8It isn't Easyは、レイドバックしたドラムスと、
Wendy Matthewsのボーカルのお蔭でソウルフルなテイストもあります。
#1と同じタイトルのインスト#9Awakeningは、スライドを絡めたスラップフレーズが
ミニマルなグルーブを作るファンクで、シンセの音色が変わると同時に
単音リフを中心としたロックへと変貌していきます。
山下達郎の何時ものあのテレキャスターのシャキシャキしたコードカッティングが
フィーチャーされ、ボコーダで激しく加工されたボーカルが特徴的な
#10Say Goodbyeは、ドラムスの叩きだすダンサブルなリズムパターン、フィルには
どこか青山純を思わせるようなハードな音でありながらフュージョンライクなグルーブがあって、
Rhodesによるソロでクライマックスを迎えます。最高です。
#11Blue And Moody Musicは#3の別バージョンで、テンポアップしたトラックになっています。
ボーカルはMatthewsがメインとなり、リズムギターは松木から山下に変わり、
鳥山雄司によるギターリフも加わって、より肉体的なサウンドに生まれ変わっています。

打込みによるサウンドでありながら、その無機質なサウンドが生み出す幻想的な空気と、
生演奏によるピアノ、ギターの抑制されたプレイ、Wendy Matthewsのソウルフルなボーカルが
合わさって、フュージョン~80年代後半のブラックコンテンポラリーへと繋がって行く
洗練された音像を生み出しています。決して褪せることの無いであろう傑作だと思います。

You're My Baby

Blue And Moody Music

Only A Love Affair

Say Goodbye

BLue And Moody Music(Alternative Take)
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  1. 2014/10/18(土) 00:09:53|
  2. 佐藤博
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
<<今日の一枚(343) | ホーム | 動名詞が続く前置詞inの省略と実例を考える>>

コメント

ガイド本などで気になってはいたのですが、
聴く機会がありませんでした。

ヴォーカルをとっているウェンディの声も
くどすぎないソウル・シンガーって感じで
素晴らしい。

ブラックコンテンポラリーへの橋渡しという評価も頷ける、爽やかな音楽でとてもよかったです。
  1. 2014/10/19(日) 16:47:56 |
  2. URL |
  3. GAOHEWGII #-
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし

流石に今聴くと、古い感じのある打ち込みサウンドと言う感じですが、
ドラムのフレーズなんかも時代の流行を的確にとらえていて、
所々に漂うニューウェーブ感が合わさって、唯一無二の世界観がある作品だと思います。
  1. 2014/10/23(木) 01:03:38 |
  2. URL |
  3. Systematic Chaos #-
  4. [ 編集 ]

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Systematic Chaos

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強しています。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
7. ジャジーヒップホップ,
オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは65,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
iPod ClassicにTEAC-HAp50またはATH-PHA31i(ポータブルヘッドフォンアンプ)を挿して聴いています。
ブログとして記事を書くことを通じて
自分のライブラリと向き合ってみると、
相当趣味が偏ってるということを
痛感しています。
これから沢山の音楽に触れ、勉強していきたいです。
たまに医学関連の記事や日々の雑感を書いております。
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