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「憂鬱と官能を教えた学校/菊地成孔、大谷能生」読後感

「憂鬱と官能を教えた学校」読後感

寒い日が続いておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか。
年間ベストも何とか組み終わって、ようやく本を読む余裕も出てきまして、
以前から買ってはいたものの積んでいた本を消化しております。

今回ご紹介しますのは、ミュージシャン、作編曲家、ラジオDJの菊地成孔の2002年に
発表された書籍である

「憂鬱と官能を教えた学校―
バークリー・メソッドによって俯瞰される20世紀商業音楽史」
(河出文庫)です。
【Amazonへのリンクになっています】

憂鬱と官能を教えた学校 上---【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 調律、調性および旋律・和声 (河出文庫 き 3-1)憂鬱と官能を教えた学校 上---【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 調律、調性および旋律・和声 (河出文庫 き 3-1)
(2010/05/01)
菊地 成孔、大谷 能生 他

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憂鬱と官能を教えた学校 下---【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 旋律・和声および律動 (河出文庫 き 3-2)憂鬱と官能を教えた学校 下---【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 旋律・和声および律動 (河出文庫 き 3-2)
(2010/05/01)
大谷 能生、菊地 成孔 他

商品詳細を見る


本書は、映画美学校で一般教養として行われた講義録で、
上巻は調律、調性および旋律・和声、下巻は旋律・和声および律動と称して、
大衆音楽、とりわけモダンジャズ~モードジャズ、ファンクを始めとするブラックミュージックの
音楽史にその焦点を当てながら、ポピュラー音楽理論、いわゆるバークリーメソッドについて、
基礎的な楽理の解説が行われています。

取り扱われる楽理のレベルは、平均律とそれによる転調の自由が誕生するまでの歴史から始まり、
基本的なコードネームの取り扱い方、ダイアトニックとノンダイアトニックコード、
四度圏(五度圏)と強進行、順次進行、ツーファイブ・ワンと部分転調、裏コード、
セコンドリー・ドミナント、ブルース(ジャズ・ブルース)進行、
チャーチモードとスケール、特性音、ルートコードとプライマリーコード、
モーダルインターチェンジ(同旋法移行、同音移行、同軸移行、自由移行)、無調、コーダル・モーダル、
と言ったテーマで、だいたい市井の音楽理論書に記されているレベルのことで、
コードに対するテンションの説明にすら入らないレベルでしたので、
特に目新しい情報がある訳でもありませんでした。

しかし、初めて理論を学ぶ方が本書読むと、譜面による説明が最小限しかなく、
譜面自体が小さくて読みづらいので、ある程度実学の知識がある方が読んだ方が良いと思います。

以前私的名盤紹介で紹介しました、「音楽理論を学ぶ上で役に立っているおすすめ書籍・HPなど

のページを参照頂きますと、特にポピュラー和声の基本的な部分は学べると思いますので、
そちらの書籍の方が分かりやすい印象を受けます。

むしろ、この本で注目すべきは講義二回分に収められている律動の講義と、
理論の実学に関係のない音楽史の部分であろうと思います。
律動の講義では、近代以降の西洋のリズムに対する概念が、アフリカ系黒人の移住した
アメリカでどのように変化していったかが鮮やかに記述されています。
実学の部分では、ポリリズム的感覚がどのようにして白人に取り入れられていったか、
コードの進行とメロディによって楽曲のリズムが規定される
(メロディやコードが止まればリズムは停止する)場合と、
基本パルスが常に維持されリズムによって曲が規定される場合において、
後者では表、裏拍の概念が希薄となり、コードの進行を伴わない、或いは少ないパターンを繰り返す
音楽が成立することなど、両者の相違点が鮮やかに描き出されています。
特に新鮮だったのが、自然言語を二種類に分類し、この両者がそれぞれ強勢(固定された周期性が
存在しないアクセントが散在して生まれる)によって進んでいく言語、
音節(2と3を基本単位として構成される整数によるパルスを積分的に組み合わせて生まれる)によって
進んでいく言語の違いによって生じたのではないか、という仮説です。

ジャズを始めとする音楽史の解説は、後に出版されることになる
「東京大学のアルバート・アイラ―」のシリーズと重複する部分もありますが、
手短に学びたい、ということであれば、本書でもジャズ史の概観は得られると思います。

菊地氏に特有の、衒学的で読者をけむに巻くような語り口、特に構造主義以降の哲学、精神分析の
類に影響された文体は、人によっては嫌悪感を感じる部分もあるとは思いますが、
「言葉遊び」のアジテーションの側面だけではなく、中には興味深いアナロジー、
ミュージシャンの感覚に基づく率直な直観が散りばめられており、
現役のミュージシャンがこうした内容を語ることの面白さ、ロマンのある本だと思います。
当時彼は精神を病んでおり治療中であった(強迫神経症か?)ということらしく、
文章全体にどことなく暗く、ヒリヒリした感じが漂っており、
そうした部分が「アルバート・アイラ―」の健全な感じに比べて不思議な魅力があります。

MIDI、サンプラー登場とコンピュータープログラミングによる作曲、Pro Toolsの時代、
つまり80年代以降の音楽史に関してはあまり説明のない本書ですが、
そういったテクノロジーの進歩に関するコメントで、私が一番気に入った一節を引用しておきます。
長くなりますが…

『(前略)もし僕の音楽を好きだったら、その、僕の音楽は一曲たりとも、一人で作ったことは
ないっていうことはね、忘れないでほしいの。これはすごく大切なことです。
未だに何を作るにしてもね、自分一人じゃ何もできない(笑)。
80年代以降、たった一人で音楽作れるようになって、そのことはすごく面白かったし、
音楽の可能性をぐんと増やしたと思う。(中略)
だから極端に言うとさ、人と何かやるのなんかかったるいから、自分だけでやるっていう人も
多いと思うの。(中略)大切なのはね、人と一緒にやると、上手くいかないこととか、
嫌なこととかね、そういったいろいろなバグが不可避的に
音楽のシステムの中に入ってくるんです、うん。(中略)
そうするとさ、ある種の強度が出るんだよね。一人だけでやってる時とはまた違った。(中略)
で、一人でやんないってことをさ、バークリーはすごく教えてたと思うし、
一方でそれはね、音楽を記号的に教えてる学校の、何つったらいいのかな、
潜在的な罪悪感みたいなものかもしれない、って思います。』

単なるアジテーション以上の物が含まれている、面白い本です。

おすすめです。
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Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強しています。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
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S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
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ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
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