私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

2017年度 邦楽私的ベストアルバム10

2017年度 邦楽私的ベストアルバム10

私的名盤紹介にお越し下さっている皆様、お世話になっております。
管理人の@privategrooveです。寒くなって参りましたが皆様はいかがお過ごしでしょうか。

私の方はと言いますと、今年大学を卒業し病院に就職、社会人1年目として、
医師のはしくれとして日々業務に取り組んでおります。

夜勤、休日の勤務などありますが、他の急性期病院に比較すれば、
案外、時間的に余裕のある生活をすることが出来ていると思います。

社会人として給料を頂くようになり、学生時代に比べて資金的な余裕も出てきたため、
新譜もある程度躊躇わずに購入できるようになりました。
近年の作品の面白さに、様々な点で気づくことのできた一年になったと思います。

友人が結婚したり、大学時代の仲間はそれぞれ様々な病院に就職したりと、
20代半ばという時期は、人生に様々な変化が起こり始める時期であるということを、
日々実感しています。

さらに、初めての一人暮らしが始まりまして、昨年の10月頃より試験的に開始した放送企画、
「私的名盤放送」を活動の中心に据え、Twitterでの音楽情報呟き、
日々のCD/レコード漁りを楽しんでいます。こちらも継続して活動していこうと考えておりますので、
これからも宜しくお願い致します。

さて、今年もいよいよ年末が近付いて参りました。恒例の年間ベストを記録しておこうと思います。
昨年は、医師国家試験の勉強のために記事作成が大幅に遅れてしまい、非常に反省しております。
ですので、今回は簡潔な内容に纏めて記しておこうと思います。

まずは邦楽編です。

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2017年度 邦楽私的ベストアルバム10

【総評】
音楽を楽しむ環境に関する問題は、いつの時代でも存在してきました。
音楽それ自体の非常に長い歴史を鑑みれば、録音芸術としてのポピュラー音楽は、
その長い歴史の中で、ほんの一部を占めているに過ぎません。

シートミュージックとティンパンアレイの時代、SPレコード、LPレコードの誕生、LD,
カセット、MD, CD、そして配信、ストリーミングサービスへの音楽媒体の変化、
アナログ録音(テープレコーダーとMTR)とデジタル録音(DAW)という録音方式、機材の変化は、
音楽それ自体の内容と全く無関係ではありません。

録音技術の変化は、音楽の「音韻重視」から「音響重視」への変化を支持するものでありました。
打ち込みによるドラムとそのクオンタイズ機能、DJとブレイクビーツの誕生は、
人間の身体的なリズムに変革をもたらし、
例えば黒人音楽ではニュークラシックソウル、ネオソウル以降のムーブメントの重要な役割を果たしました。
(そのビート革命の中心に居た人物の1人が、J Dillaであると考えられます。)

「人間」と「機械」の二項対立が存在し、機械の誕生とその超克を経て作られる音楽の弁証法的変化は、
人間の「身体の延長」としての機械の捉え方と共に、
音楽の歴史を振り返る際に注目するべき視座であると思います。

昨今注目されているストリーミングサービスでは、定額の料金を支払う事により、
何千万曲にも及ぶ音楽に瞬時にアクセスでき、SNSサービスなどを用いてそれを共有することが
できるようになりました。

かつては、音楽のトレンドを伝える中心的な役割を果たしていた、
オリコンとマスメディアによる力は減衰し、
今や、市井のリスナーの発信する情報に、質、量共に追い越されてしまった、
と言っても過言ではないと思います。

これからはリスナーの私たちこそがメディアの役割を兼ね、
音楽のシーンを主体的に作っていくべき時代です。

数千万の楽曲を自由自在に楽しめることは、
ポピュラー音楽の地図をポストモダン的な平面構造に変化させるものであり、
かつて、渋谷系がJPOPにおいて特異な輝きを見せていた時代には、
タワーレコード渋谷店と、宇田川町という一つの街が、
既にこの役割を果たしていました。この時代の訪れは、必然であったと私は考えています。

シミュレーショニズムの一般化も合わせて、音楽それ自体の時代性、
エスニシティは希薄化の一途をたどっています。

そして、楽曲は1曲単位で評価され、アルバムでの評価とそのレビュー、
"Rockin' On"に代表されるロックジャーナリズムに典型的な、「英雄の群像劇と音楽」という観点での
音楽評論、というようなかつて一般的であった音楽についての言説は、
既に時代遅れの感が否めないとも言えます。

クラブにおけるDJプレイが一般的なものとなった現代では、楽曲を選択する、という行為そのものが、
そのDJの個性を表していると言えるわけで、
これを逆転させれば、アルバムというものの構造、
曲順や構成はそのアーティストの表現したい音世界の全体像を表現しているという、
これまで当然のことととして認識されてきたことを再確認させてくれます。

プリンスが、グラミー賞の授賞式で、「アルバムは今でも重要だ」と述べたように、
(Albums, Remember Those? Albums still matter.
Like books and black lives, albums still matter. )

今でもアルバムは重要だと、私は思います。

2017年度、私的名盤紹介管理人が厳選した、20枚のアルバム達です。
是非、聴かれてみてください。


では、どうぞ。

Title/Artistの順に記載。

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【邦楽編】

第10位 from Zero to "F"/UNCHAIN
Genres: Rock, Mixture Rock, AOR, Soft Rock, Funk, Disco


from Zero to F500

私的名盤紹介では開設時から度々取り上げてきた京都出身の4ピースです。
ミクスチャーロック、AOR、フュージョン、ソウル、ディスコなどを自在に吸収し、
巧みなコードワークと高い演奏力で纏め上げる実力の高さ、歌/コーラスの上手さ、
ライブの安定感含め、日本のロックのメジャーシーンでは奇跡的な存在だと思っています。

3枚リリースされたカヴァーアルバムはいずれも非常に高いクオリティ、オリジナリティを感じる内容で、
カヴァー名人として有名となってきた彼らですが、これまでの楽曲の再レコーディング"10fold"と、
エレクトリック色の強かったwith timeを挟んで、本作ではAvex時代や、さらにそれ以前の
ミクスチャーロックとしての色が強かった時代へと原点回帰した内容になっています。

ハードでメロコア的なグルーブを追求したHello, Young Souls!!
ソウル色の濃かったEat The MoonやOrangeなど過去のサウンドの良いところ取りで、
さらに重みのあるグルーブに満ち満ちています。

リード曲のM1Fresherはギターの短いフレーズをサンプリングして組み合わせ、
それでリズムを作り、ドラムは4つ打ちを中心に組み合わせる新たな試みがみられます。

特にお気に入りはスムースジャズ~ブラックコンテンポラリーを感じ、
現代版「丸の内サディスティック」ともいえるM2甘い晩餐です。
躊躇わずにホーンを加えたアレンジで、ただでさえキーが高いのに加えて、
後半で転調してからも見事に歌い切るハイトーンは圧巻です。

正に文字通り原点回帰をタイトルとした
M3Back To Basic(Average White Bandを意識したタイトルでしょうか)では、
吉田昇吾のドラムはメタリックでへヴィーな音作りとなり、シンプルなフィルでも
圧倒的な存在感を放ちます。ファンキーな展開でもロックのタイム感を忘れずに
演奏する様は、後輩のBRADIOを思わせます。

リズムマシンのスクエアなリズムパターンに不穏なエレピのコードと、
ソウル的なメロディを重ねるM5Underground Loveは、Rapture周辺のアルバムに
収録されていそうなポップな一曲です。しかしツインギターで複雑に空間を作るより、
単音カッティングとコードのみでシンプルな作りとし、アシッドジャズ的なベースラインで
曲に立体感を作り上げています。このあたりのミックスの上手さが、
彼らの成熟を感じさせます。これもお気に入りです。

さらにアップテンポで星野源/恋をミクスチャーロック~パンキッシュに演奏したような
M8Flowered、巧みなコーラスワークを取り上げたM9Tomorrow、
ネオアコ~ソウルの間を行くM10What You WantはEat The Moonにありそうな一曲。

そして最後を飾るM12You & Iは、エレピとリズムマシーンに歌から始まり、
Stevie Wonder/Innervisionsに収録されているHe's Misstra Know It Allを思わせるメロディで、
海外で言えばPJ MortonやVernon Burchばりの研究の深さを感じさせます。
このStveieモチーフを中心に、徐々にリズム隊が入りフュージョン的になっていきます。これも最高。

長いキャリアのある彼らですが、安定して良質な楽曲を作り続けてくれており、
これまでのUNCHAINの総まとめ的な内容となった一枚でした。
シティポップリバイバルのブームの中で、今年はどんな音を作り上げてくれるか、楽しみです。

第9位 Bluesongs/Kashif
Genres: AOR, JPOP, Electronica, Chill Out


BlueSongs500.jpg

横浜に活動拠点を置くシティポップ~レゲエ~ポップス~AORユニット、PanPacificPlayaのギタリスト、
KASHIFのソロ1st。ギタリストとして、一十三十一やスチャダラパー、(((さらうんど)))、
G.RINA、Sugar's Campaignなどのライブに参加し頭角を現しました。

有名なところでは、00s以降密室的な音作りの中にフュージョン~AORを落とし込み、
独特の甘く滑らかな歌声でも知られる一十三十一のCity Dive(流線形のクニモンド瀧口プロデュース)で
トラック提供していることでも知られています。

現代のシティポップリバイバル、特にYMO以降、ニューウェーブムーヴメントから日本に浸透した
テクノ~ハウスの打ち込みサウンドと、シティポップやリゾートミュージック、AORを融合した音が、
ブラックコンテンポラリー方面ではG.RINA, JPOP~渋谷系方面ではSugar's Campaign,
そして坂本龍一のソロにあるような、より内省的でミニマルな路線を目指したのが本作と感じられます。

ゲストには一十三十一をボーカルに、作詞には(((さらうんど)))のイルリメを迎えています。
同名のブラックコンテンポラリーを代表するプロデューサーであり、
元BT Expressのメンバー、Kashif(Micheal Jones)からの影響もあるのか、
全体のコード感は80sソウルを中心に組み立てながら、浮遊感のあるリズムと、
彼自身による繊細なボーカルを組み合わせることで、シティポップ~チルウェイブの間を行く
独特な音世界を作り上げています。

マスタリングを担当しているのは電気グルーヴの砂原良徳で、一つ一つの音の粒立ちの良さ、
聴いていて疲れないバランスが徹底されており、特にM1Breezingでは、ギターのコードとブラッシング、
加工されたコーラスのリヴァーブ、電子音が耳を撫でる質感、
その全てが完璧なバランスで配置されています。これだけで鳥肌ものです。
この曲を聴いて思い出したのが、90年代にMISIA, 嶋野百恵, birdなどと共にJR&Bブームの一翼を
担い、その後はアンビエント、エレクトロミュージックへと接近していったACOの傑作、
absolute ego(1999)に収録されているM2悦びに咲く花のミックスでした。それに迫る完成度です。

ブラックコンテンポラリー好きな自分としては、M2On and Onが特にお気に入りです。
懐かしさのあるリズムマシンの作るスクエアなグルーブに、まろやかなシンセベース、
しかし彼のボーカルとコーラスが覆いかぶさると、途端にチルな音へと変化します。
かと思うとM3The Nightでは少しファンキーに展開し、フュージョンライクなリードギターが
絡みついて、弾き過ぎないぎりぎりのところで楽曲を盛り上げます。
クラブミュージック的な音の抜き差しを挟んで、後半に向かってErnie Isleyを思わせるような
エモーショナルなリフレインが堪りません。

George Bensonのようにボーカルとのユニゾンを基本としながら、フュージョン色の強い
M4Clean Up, ニュージャックスウィングの定番なフレーズで始まるM5Desperate Coffeeでも、
敢えてスイングさせ過ぎずにスクエアでシーケンシャルなフレーズを重ねて冷ややかに仕上げています。
バリバリと歪ませたギターの音をサンプリングして散りばめたM9では、
ほぼキックとボーカルのみのパートから、Steely Dan的な緊張感あるサビを繋げるという、
これも個性的な一曲です。


第8位 ザ・ファウンダー/フィロソフィーのダンス
Genres: JPOP, idol Pop, Neo Shibuya-Kei, Disco


The Founder500

2015年に結成された日本の4人組アイドルグループ。2ndフル。
プロデューサーを務めるのはウルフルズ、Number Girl, Base Ball Bear,
相対性理論, Mrs. Green Appleなどを手掛けた加茂啓太郎で、
近年のアイドルや声優における渋谷系再評価や、ディスコ、フュージョン再興の
流れの中に居るグループとして捉えられるかと思います。

これまで私的名盤紹介でお話してきたグループとしては、解散してしまったEspeciaや、
松井寛プロデュースによる東京女子流、渋谷系としてはOriginal Loveの田島貴男による曲提供でも
知られるNegiccoなどがありますが、その中でもこの「フィロのス」のサウンドは、
より肉体的でファンキーなサウンドを指向しており、アルバムの録音状態も良好で、
非常に将来に注目したいグループです。

リードボーカルはリーダーの奥津マリリと、アイドルとしてはこれまで無かった低音の強い
ソウルフルな声質の日向ハルが目立っており、いわゆる甘いアイドルボイスの中で、
異彩を放っています。

1stアルバムのタイトルはFUNKY BUT CHICで、これは彼女たちの活動のテーマともなっています。
Chicということからも分かるように、Nile Rogers率いるディスコグループ、Chic的な
カッティングや、本作ではM11ベスト・フォーにBoz Scaggs/Lowdownのリズムパターンを取り入れたりと、
AOR, フュージョン、ディスコのエッセンスを積極的に取り入れており、
かつてのSMAPや林田健司を思わせるサウンドです。同様に、ハロー!プロジェクトに所属する
アイドル達も、ディスコ~ブラコン、ソウルに影響を受けた楽曲が散見されますが、
彼女達の楽曲はそれにフュージョン~アシッドジャズ的な編曲が目立ちます。

M1ダンス・ファウンダーは豪華なブラスとフィリーなストリングスをあしらったディスコで、
低域の多スネアとLouis Johnsonを思わせるジャリ付いたスラップベースのからむ一曲。
西海岸フュージョンなホーンのリフレインとストリングス系のシンセが懐かしい
M3はじめまして未来は、歌謡曲的な展開を上手く取り込んだ隙間のあるアレンジで素晴らしい。
ワンコードでゴリゴリと押すJBなファンクM4エポケーチャンス、
角松敏生プロデュース作品直系なイントロ~Aメロ、山下達郎を思わせるテレキャスのカッティングが
合体したM5夏のクオリアは、シティポップ~リゾートミュージック好きなら思わず唸る一曲。
手数を抑えた打ち込みドラムとベースも青山純&伊藤広規のリズム隊を研究しています。最高。

ラテンフュージョンなM6ニュー・アタラクシアや、アシッドジャズ~NJSな翳りのあるトラック
M8ミスティック・ラバーは、甘く幼いボーカルと合わせるとまた新たな味わいがあります。
シタールと細やかなキック、電子音を中心に組み立てたM10アルゴリズムの海など、
その他にもダンサブルでキャッチーなトラックが満載です。佳作。

第7位 BLUE/向井太一
Genres:R&B, Future Soul, Ambient R&B


Blue500.jpg

福岡県出身のシンガーソングライター、トラックメイカー。1992年生まれ。1stフル。
音楽活動以外にも、ファッション誌でのコラム執筆、モデル活動など行いながら、
2016年に1st EPを発表し、現代のアンビエントR&B~フューチャーソウルのサウンドを生み出しています。
まだ謎に包まれた部分の多い新人ですが、近年のJames Blake, Arca, FKA twigs,
King, Weekend, Samphaなど、チルウェイブ、チルアウトと呼ばれる、
冷ややかなシンセが特徴的なエレクトロミュージックとブラックミュージックを
融合する流れの中にある音楽性と言えると思います。

ここ2, 3年で、邦楽ロックバンドのブラックミュージック化が進んだ経緯がありますが、
その中でLucky Tapesの高橋海やyahyelのメンバーがco-produceに参加しており、
D'Angelo, J Dilla以降のDopeなグルーブが詰め込まれた一枚になっています。

最新の音と言いながらも、リード曲となるM2FLYは、80sのブギー再評価としても聴ける一曲で、
お気に入りです。曲後半でチルなシンセを配置してコード感を薄く、EDMに接近しながら、
ベースラインではスラップベースとカッティングでファンキーにするバランス感覚は、
すでに熟練したアレンジのセンスを感じさせます。

M1楽園は00s初頭の邦R&Bを思わせるメロディを使いながら、サビでは複雑に重ねられたコーラスと
シンセ、細やかなハイハットでポリリズム的に聴かせたり、
古典的なソウルフルハウスのリズムパターンとアシッドジャズ的なコードに、
James Blakeのようなか弱いファルセットを合わせたM5Great Yardも面白いです。

ラッパーのSALUをゲストに迎えたM7空はクラシックなソウルに最も近い一曲。
スムースジャズ的なM8眠らない街も、80sソウルが好きな方には堪らないです。
Donny Hathawayを思わせるエレピの弾き語りで始まるM12君にキスしても淡泊な歌唱と、
アコピのオブリガート、太いベースと合わさると、途端にモダンな音像へと変化します。

弱冠25歳のSSWとは思えぬ新旧織り交ぜたサウンドへの深い理解と、
それらを絶妙なバランスで料理し、邦楽ポップスとして聴いても成立させる才能は、本物だと思います。
今後、日本のブラックミュージック界を背負う重要な人材になるだろうと、私は思っています。傑作。

第6位 Soul Renaissance/ゴスペラーズ
Genres: R&B, New Jack Swing, Black Contemporary, JPOP


Soul Renaissance 500

早稲田大学のアカペラサークルで結成された男性5人組のコーラスグループ。15thフル。
デビューは91年のことで、彼らのヒットのきっかけとなったシングル、「永遠に」は
00年に44週間連続チャート100位以内にランクインしました。
デビューから、当時の90sUSR&Bのサウンドを積極的に吸収しながら、
当時まだアカペラグループ/コーラスグループ自体の知名度が高くなかった日本で、
初めて一般に広く認知されるようになったアーティストとも言えるかもしれません。
古くはラッツ&スター(シャネルズ)などから始まる日本のブラックミュージック受容の過程の中で、
90sから00sにかけて、最も重要な役割を担ったグループの一つ、と考えられます。

本作は、15年前の02年にリリースされたヒット作であり、「永遠に」を収録した
Soul Serenadeのリバイバルを意識して制作されています。
先行シングルのGOSWINGは、かつてのNew EditionやBlackstreet, GUY, Bobby Brownなどに代表される
ニュージャックスウィングのサウンドとイディオムを取り入れた楽曲となっています。
GOSWINGのC/WであるRecycle Loveはメンバーのうちもっともジャジーなハーモニーを好む傾向にある
酒井雄二の作曲で、多重録音を活用して、Steely Danを思わせる複雑なコードを巧みに使った、
Soul SerenadeならSlow Luvを思わせるような逸品です。

ゲストの作家には、アーケードゲーム「Dance Dance Revolution」やTVゲーム「ときめきメモリアル」
の楽曲で知られ、初期EXILEの楽曲, モーニング娘, Cuteなどハロープロジェクト系のアイドルの
アレンジャーとしても知られる平田祥一郎が加わっています。彼の筆によるシングル、
M3Dream Girlはゴスペル的なマナーを守りつつも、00s初頭~半ばの邦楽R&Bの魅力を凝縮したバラードです。

黒澤薫によるM7暁は、同じ90sでも、ニュージャック的なリズムにアシッドジャズを意識した展開を
組み合わせており、こちらもIncognitoやBNHのファンには堪らない一曲となっています。
こうしたトラックだとどうしてもリズムが強調されてしまいがちですが、
サビでは力強いコーラスを前面に押し出していて、
近年流行しているSuchmos, Nulbarich, Neighbors Complain, SIRUPなどの
アシッドジャズリバイバルとは一線を画しています。

藤井隆のオリジナルアルバムが典型的ですが、今年は「90sリバイバル」が重要なキーワードとなった
一年だと思います。ディスコ~シティポップリバイバルから、次にニュージャックスウィングの
リバイバルがやってくる、と管理人自身各所で言ってきましたが、
やはり時代は廻っているということを実感させてくれる一枚でした。傑作。

第5位 Jasmine/唾奇XSweet William
Genres: Hip Hop, Native Tongue, Beat Music


Jasmine500.jpg

ストリーミングサービスが中心となってきた世の中で、「アルバム」という概念は
非常に希薄となってきました。アルバムの概念を再構成する存在として重要なのが、
DJするという行為(楽曲を選び取って、順序のある一つのかたまりとすること)だと私は思います。
楽曲が1曲単位で評価されるのであれば、その楽曲同士を有機的に結び付けて、
ポピュラー音楽の歴史を解釈し作り上げていくには、
プロのDJのみならず、一般のリスナーがDJとなり、音楽に対して能動的に聴くという態度を
取っていくことが、大切ではないかと考えています。

DJの機材を販売するオンラインショップとして、日本で最も知られるサイト、会社である
「オタイレコード」は、管理人の住んでいる愛知県の北名古屋市に位置しています。
オタイレコードはDJ機材、オーディオ機材の販売のみならず、日本全国のビートメイカーの
No1を決める大会であるBeat Grand Prixを主宰し、若手のMCやトラックメイカーの登竜門となっています。
愛知県出身のトラックメイカー、Sweet Williamも、この2015年度大会に出演し、
その名が知られるようになります。

今作は沖縄県出身のラッパー、唾奇とタッグを組んだ1stフルで、
ATCQのようなジャジーヒップホップのみならず、Jazzanovaなどのソウルフルハウス~アンビエント、
邦楽では渋谷系のCymbalsや、ネオ渋谷系のSugar's Campaignなど、様々なジャンルからの影響を感じさせます。
ゲストには、シティポップリバイバルの流れの中で、クラブ寄りのサウンドを得意としながら、
一十三十一を思わせるようなミルキーなボーカルが特徴的なkiki vivi lilyなどを迎えています。

唾奇によるラップは、Naughtyで刺激的で攻撃的なリリックが多く、
重いビートや暗いハーモニーが似合うように感じられますが、
Sweet Williamの作るビートは、太さがありながらも非常にチルでメロディアスなもの
となっているので、2つが合わさることで、ラップの攻撃性がサウンドの中に上手く取り込まれ、
えも言われぬメロウなエロさを感じさせてくれます。

PUNPEEの1stは人口に膾炙するサウンドと言えるでしょうが、
近いうちにはこの唾奇 X Sweet Williamが作り出すサウンドが、
一般にも評価されていく日が訪れるのではないかと私は考えています。
サウンドとしては、個人的にはこちらの方が好みです。
Jヒップホップファンのみならず、渋谷系リバイバルやシティポップファンにも必聴の一枚。

第4位 NBCP/Neighbors Complain
Genres: R&B, JPOP, Disco, Funk, Acid Jazz


Neighbors Complain500

詳細は「今日の一枚(407)」に掲載済みです。
全ての邦楽ブラックミュージック好きにおすすめできる一枚。
90sアシッドジャズのファンや、80sディスコクラシック、90s邦楽R&Bなど
様々なサウンドを完全に消化し、バラエティ豊かに披露しています。
演奏力もかなり高いです。今年一番のグル―ヴィーなJPOPのアルバムです。

第3位 light showers/藤井隆
Genres: JPOP, R&B, Disco


Light Showers500

吉本興業に所属する芸人、俳優による5thフルアルバム。
90年代のNSC出身の芸人(同期には中川家、陣内智則、たむらけんじ、ケンドーコバヤシなど)
として、「よしもと新喜劇」で、いわゆる「オカマキャラ」としてその名が知られるようになります。
ダンス、歌のうまさでも知られる彼は、自信の演じるキャラ「マシュー南」の名義で楽曲を発表したり、
現在のように司会者、役者としての活動が中心となる前から、歌手としても活動を行っていました。

彼の芸風からして、自分以外の何者かに扮することによって面白さを生み出すという構造を持っており、
これはアメリカ大衆音楽における、ミンストレルショウから続く「擬装」の文化と相似形にある、
とも言うことが出来るでしょう。
(詳細は、大和田俊之さんの著作、
『アメリカ音楽史: ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』を参照されてください)

本作は個人名義での5thであり、発売に先立って発表されたYoutubeの宣伝動画が大きな話題となりました。
内容は、90年代のテレビCMのパロディーを撮影し、その出演者として藤井隆自身が様々な衣装に扮し、
BGMとしてアルバムの楽曲を当てはめていく、という斬新な試みでした。
(以下動画のリンクです)

したがって本作はコンセプトアルバムであり、90年代にヒットしたJPOPのイディオムで構成される内容
となっています。具体的には小室哲哉、浅倉大介に代表される派手なシンセサウンドと、
キャッチーなメロディの組み合わせということになりますが、楽曲によってはネオアコ~渋谷系的な
ものから、EPOの提供したM1など、モダンな音作りのものもあります、

プロデューサーには冨田謙(NONA REEVES、宇多田ヒカル、サカナクション、ORIGINAL LOVE、YUKI etc)
を迎えており、作家にもNona Reeves/西寺郷太や、渋谷系で重要な一角を担った堂島孝平、
近年の渋谷系リバイバルの中では澤部渡(スカート)、シンリズムなども作家陣に加わっています。

大仰なシンセリフとキメがダサ格好いいM3, 野宮真貴時代のPizzicato Fiveを思わせるM6,
PARCOのCM風なM7はノイジーなシンセのディスコ、Style Council的な爽やかさのあるM8など、
古き良き煌めくポップスが詰め込まれています。

しかしながら、キックやスネアの音色、フィルの細かい部分、シンセの音色は新旧織り交ぜて
選択されており、今聴いても気疲れしないミックスとなっています。
90sポップスの輝かしい時代に思いを馳せながら、あの時代からJPOPがどのような歴史をたどってきたか、
振り返るきっかけとなった一枚でした。

第2位 レトロアクティブ/ブルーペパーズ
Genres: AOR, Soft Rock, JPOP


レトロアクティブ500

一昨年度の年間ベスト(リンク)にも掲載した、管理人が最も愛聴している
邦楽シティポップ~AORユニットの1stフル。
邦楽シティポップ、ネオ渋谷系の近年の流れからすると、
90年代に冨田恵一とのタッグで独自の複雑でジャジーなポップスを作り出した
キリンジ(今年TVCMでエイリアンズが使用されたのも記憶に新しいところです)からの
影響が示唆されるユニットが多い印象です。

しかし、彼らの楽曲からはそうした後期Steely Danを源流とするサウンドよりも、
80sの邦楽シティポップ、AORからの影響が色濃く感じられます。
例えば先行シングルのC/WとなったM秋風のリグレットは松任谷由美の
No SideやVoyagerに収録されていてもおかしくないようなサウンドです。

これは、一つ一つのシンセの音作りや、最近の録音のJPOPでは見られない、
アナログなリヴァーブ感のなせる業とも考えられます。
一般的に複雑なコード進行では、ボーカルもジャズボーカル的な難解なメロディーが
選択されてしまいがちですが、彼らの楽曲はメロディもキャッチーで、
佐々木詩織や星野みちる(ex.AKB48)などのゲストボーカルを迎えることで、
彼らの狙う甘酸っぱいシティポップの魅力が最大限に引き出されています。

その最も近いところは、RCA/AIR後期からMOON期にかけての山下達郎ではないかと思います。
彼がかつてプロデュースしていたEPOのオリジナルアルバムに、
負けずとも劣らぬ出来栄えと言えるでしょう。

彼らは基本的には2人組のユニットとして活動しているのですが、
今回はスタジオミュージシャンとして
佐野康夫(Dr, aiko etc), 森俊之(Key, スガシカオ etc)らを迎えています。
佐野康夫のドラムが加わった、Mずっとのリズムは、
細やかなゴーストノートと、後半にかけてストーリー性のある盛り上げ方で、
楽曲によりモダンな印象を与えています。

メンバーの福田直木さんはTwitterでもフォローしていただいており、
「AORのクソダサい帯bot」(リンク)という面白い企画も運営されております。
日本盤ならではの時代を感じる帯コメントが満載で、
これを読み上げて楽曲を掛けるというイベントも企画されていたりと、
精力的に活動されています。

80sシティポップのファン、Jay Graydon~TOTO, David Foster参加作品に代表される
西海岸のAORがお好きな方であれば、
どなたでも、買って損しない一枚だと思います。

Jeff Porcaroがそこに居るのではないかと思えるほどの再現度のドラム、
煌めくキーボードリフ、そして時にはM10サーチライトのような
ウェストコーストロック~SDのようなサウンド、
限りなく洋楽ライクでありながらJPOPとしてのバランスを取ったメロディと、
どの面からみても、もっと売れるべき、良質なJポップの名盤です。

あの頃のサウンドをリアルタイムで楽しまれていた世代には勿論、
彼らの楽曲を入り口にして、AORの世界へと入っていくにも最適の必聴盤です。

第1位 Modern Times/PUNPEE
Genres: JHip Hop, Native Tongue, R&B


Modern Times500


1984年生まれのMC, トラックメイカー、音楽プロデューサー。東京都出身。本名は高田智央。
弟もS.L.A.C.K.の名義でMC, トラックメイカーとして活躍しています。

10年ほど前より弟のSLACKや同級生を集めたグループ、PSG名義にて活動しており、
フリースタイルラップの全国的な大会として知られるULTIMATE MC BATTLE
(筆者地元の名古屋では呂布カルマが予選王者に選ばれました)に出場したり、
ヒップホップトラック作成のために一般的に用いられるサンプラー、MPCの発売元であるAKAIの主宰する
AKAI PROFESSIONAL PRESENTS SAMPLER BATTLE GOLDFINGER's KITCHENに出場したりと、
その知名度を徐々に高めていきます。

2011年頃よりMix CDがトラックメイカー、MCの間で話題となり、
サニーデイサービスや後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)など、邦楽ロック関連のリミックスや、
加山雄三のリミックス、宇多田ヒカルの楽曲のリミックス
(光 -Ray Of Hope MIX-は日本を含む9カ国のiTunesチャートで1位)
で徐々にその名を轟かせるようになりました。

宇多田ヒカル本人出演のインターネット生放送プログラム、「30代はほどほど」
に、ラッパーのKOHHと共にゲスト出演したのは記憶に新しいところです。

今作は彼の1stフルアルバムであり、弟のSLACKをはじめとして、親交の深いISSUGI, RAU DEF,
邦人でありながらLAでの活動歴の長いBudamunk、そして大御所では
Busta Rhymes, Snoop Doggへの楽曲提供で知られるNottz(Dominick Lamb, 1977-)から提供を受けつつ、
自身のトラックも交えた大作となっています。

本作は40年後の未来から現在を振り返るというSF的なストーリーに則ったコンセプトアルバムで、
SF映画のVHSテープやフォルクスワーゲンタイプ1(現在のビートル)が描かれたジャケットからも、
レトロフューチャリズムに溢れた、コミカルなムードが全体を覆っています。

Nottzの作るビートはへヴィなものが多い印象ですが、サビはあくまでメロディアスに構成されており、
ヒップホップのコアなファンのみならず、一般的なR&B, ポップスのファンにも受け入れられる内容です。
ラップは単語数を多めに詰め込んで、それでも決して攻撃的でなく、適度な緩さのあるフロウは、
ジャジーなトラックと、同じく緩やかなフロウを特徴とする環ROYあたりとはまた異なるグルーブを生み出します。

本作がヒットしているのは、日本のポピュラー音楽が変化してきたことを示唆していると思います。
00年代初頭にR&Bのブームがあり、コーラスグループや女性ソウルシンガーなど、
日本にもUSR&Bの流行がやってきていました。はっきりとしたメロディを歌唱する、という意味で、
歌謡の一形態としてのR&Bの捉え方が、邦楽では一般的だったと言えるでしょう。

USR&Bの歴史の中で、いわゆるヒップホップソウル~ティンバランド革命以降、
R&Bとヒップホップの上下関係が完全に入れ替わってしまうと、
邦楽のヒットの中心にR&Bが取り上げられることはめっきり少なくなりました。
10年代半ばあたりから、80sソウルやディスコ(恋するフォーチュンクッキーなど)の再評価が
起こるにつれて、90sポップスとビートミュージックの融合を目指したtofubeatsのヒット、
星野源/Yellow Dancerのヒットと、ブラックミュージックとJPOPの距離は再び縮まっています。

それに加えて、宇多田ヒカルの新曲では、近年のフューチャーソウル~ファンク関連のプレーヤー
(Chris Daveなど)をメンバーとして参加させたりと、日本人の若いリスナーたちが、
再びブラックミュージックに対してコンシャスになってきていることのあらわれと考えられます。

PUNPEEの本作が評価される日本のリスナーの土壌は、非常に良質なものだと、私は思います。
これからも邦楽ブラックミュージックから目が離せません。

-------------------
私的名盤紹介の2017年度ベストアルバム、邦楽編をお届けしました。いかがでしたでしょうか。
便宜的に順位を付けていますが、どれも大切な愛聴盤となったアルバムばかりです。
この10枚に溢れてしまった作品たちは、続く「洋楽編」で記事にしようと考えています。

本年も、皆様に素晴らしい音楽との出会いがありますように。
本年度も、「私的名盤紹介」「私的名盤放送」を宜しくお願い致します。

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  1. 2018/01/15(月) 00:31:54|
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Systematic Chaos

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強していました。(2011/04-2017/03)
無事医師免許取得し、2017年より研修医一年目として社会人生活が始まりました。
新しいことばかりでストレスも多いですが、相変わらず様々な音楽に触れております。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
自分にとって魅力的な音楽を、様々な視点で、
新旧洋邦を問わず掘り下げて参ります。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
7. ジャジーヒップホップ,
オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは65,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
①DENON PMA-50 + Zensor1 (USB-DACプリメインアンプ+スピーカー)
②iPod Classic+TEAC-HAp50(ヘッドフォンアンプ)
③ONKYO DP-X1A のいずれかで聴いています。
ブログとして記事を書くことを通じて
自分のライブラリと向き合ってみると、
相当趣味が偏ってるということを
痛感しています。
これから沢山の音楽に触れ、勉強していきたいです。
たまに医学関連の記事や日々の雑感を書いております。
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