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妊娠糖尿病が出産後に糖尿病に進展しないために―レビュー

引き続いて、昨今わが国でも社会的な問題となっている糖尿病は妊娠中の女性において
妊娠糖尿病と、糖尿病合併妊娠、妊娠中に発見された明らかな糖尿病に分類されます。

以下は2017年にDiabetes/metabolism research and reviews誌に掲載された、
GDM既往のある女性が、出産後糖尿病へ移行するのを予防するための薬物/非薬物療法について纏められた、
非常に示唆に富んだレビューです。

これも原著論文が無料で公開されています
以下は私的名盤紹介管理人による同レビューのまとめです。
近年話題となるトピックの新しい知見が分かり易く纏まっています。

※本記事の複製、一部の使用、改変しての使用はご遠慮ください。
  それにより生じたいかなる不利益についても、責任を負いかねます。

原著:Preventing Progression from Gestational Diabetes Mellitus to Diabetes: A Thought-filled Review,
Diabetes/Metabolism Research and Reviews, 2017 May 19 
Kasher-Meron M, Grajower MM (Division of Endocrinology, Albert Einstein College of Medicine, Bronx, NY)

【Abstract】(日本語訳、意訳)
妊娠糖尿病(Gestational Diabetes Mellitus, GDM)を既往に持つ女性は、将来的に2型糖尿病(T2DM)へと進展するリスクが高いことが知られている。長期間のフォローアップに関する研究の成果として、糖尿病発生率は最大で70%にも及ぶことが報告されている。

GDMを既往に持つ女性の、適切なフォローアップの方法についての研究は、いまだ本格的に行われていないのが現状である。ガイドライン上では、産婦人科医が年に一度の健康診断で出産後の女性の血糖値をモニタリングし、糖尿病の早期発見に資することが推奨されている。しかし実際には、そうしたスクリーニングを行っている施設は少ない。

GDMを既往に持つ女性の糖尿病発症を予防するために有効な介入に関して、良質な、あるいはクリアカットなエビデンスは何一つ提示されていない。生活環境に対する介入プログラムをこうした女性患者の群に適応しても、良い結果は得られなかった。メトホルミン、ピオグリダゾン、リラグルチド、そして肥満外科手術が考えうる選択肢の一部となるが、データが不足している。その他、様々な薬物治療を評価するためのRCTを、生活環境への介入群、非介入群に分けた上で今後行っていく必要があると考えられる。
【introduction】(以降は全訳ではなく要約)
①2009年から2012年の調査においては、米国の成人のうち37%が前糖尿病状態にあると言われており、2012年の調査では、20歳以上の米国人において推定86万人もの前糖尿病状態の患者が存在しているといわれている。
②GDM既往のある女性患者のうち、将来的に糖尿病を発症しやすい患者には共通する特徴がある。それは患者および患者家族の年齢が比較的若いことである。若い家族は忙しく、生活環境改善のための介入に参加するための時間がないことが、大きな障壁となっている。
③若い母親であれば次の妊娠・出産をいずれ迎えていくことであろうし、そもそも、その母親のこれからの人生も長い。そういった母親を、高血糖や次なるGDMの状態に曝すのは避けねばならないから、患者の年齢層の問題はとりわけ重要であると言える。
④GDM既往があることは、2型糖尿病には至らないまでも、将来的にメタボリックシンドロームや心血管イベント、NASHなどを含めた様々な疾患のリスクとなることも知られている。
【GDM Diagnosis, Incidence and The Risk of Developing T2DM】
①米国でのGDM発症率は9.2%にも及ぶという報告がある。
②過去30年間でGDM発生率は増加しており、1979-1980年では0.3%であったが、2008-2010年の調査では5.8%となっている。この増加は妊婦の高齢化、BMIの増加のみでは説明がつけられない。
③GDM既往のある女性では、将来的に2型糖尿病となるリスクが高いことが知られている。長期間に及ぶフォローアップを行った研究では、糖尿病発生率は最大で70%にまで及ぶことが報告されている。
④GDM後のT2DM進展率は報告によって値が様々であるが、これは人種や民族によって発生率が異なること、フォロー開始時期と継続期間が異なること、適応される診断基準が異なること、フォローアップを自己中断する人が多いことなどが原因であるだろう。
⑤GDM後のT2DM発症患者の特徴は、通常のT2DM患者の特徴と類似しており、肥満、DM家族歴、インスリン抵抗性、インスリン分泌能の低さが重要となる。
⑥妊娠前のBMIだけでなく、出産後の体重増加が多ければ多いほど、GDM後にT2DMへと進展しやすいことが知られている。「ベースラインBMI≧30かつGDMにて出産後≧5kgの体重増加があった患者」では、「ベースラインBMI<25かつ出産後<5kgの体重増加があった患者」よりもT2DMへと進展しやすいことが明らかとなり、補正ハザード比で43%増加すると報告されている。
⑦GDM患者のうちGAD抗体または抗インスリン抗体を有していた患者は全体の5%未満であった。
【Current state of follow up】
①ADA(米国糖尿病学会)のガイドラインでは、出産後4-12週でOGTTを行うことを推奨している。OGTTを行って耐糖能異常(IGT, impaired glucose tolerance)がない場合でも、1-3年ごとに再検査を行うことが推奨されている。
②スクリーニングにはOGTTを行うほかにHbA1c測定による方法があり、HbA1c測定であればアドヒアランスが高く、高いスクリーニング受診率が期待できる。したがってOGTTの代わりの選択肢として考えられる。
③しかしながら、GDM既往のある女性の産後1年のスクリーニング結果(n=231)では、OGTTで46%異常が検出されたのに対して、HbA1c測定では僅か19%しか異常が検出されなかった。(両者共に感度、特異度の低い検査であるにもかかわらず)
④以上のことから考えられるスクリーニングのプランとして、産後1年のDMスクリーニングとしてOGTTを行い、その後OGTTは行わず、1年に1回のHbA1c測定または空腹時血糖測定を組み合わせていくという方法が合理的ではないか。
⑤実際の臨床では、GDM既往のある女性の血糖スクリーニング検査はあまり行われていない。
⑥2000年から2012年にかけて保険会社によって行われた調査では、50州から集められた32000人にも及ぶGDM既往女性が調査の対象となった。しかしそのうちの75%は産後1年でDMの検査を行われていなかった。
⑦1994年から2008年にかけてカナダで行われた調査では、GDM既往女性のほぼ全員が家庭医や産婦人科医の診察を受けているにもかかわらず、そのほとんどがOGTTを行われていなかった。
⑧近年の研究では、GDM既往女性の長期フォローアップに関する不備に焦点が当てられている。The National Health and Nutrition Examination Surveyの2007年から2012年にかけての調査(n=284)によると、20歳から60歳の女性のうち、産後3年以内にDMのスクリーニングを受けた女性はわずか67%に留まった。さらにそのうちの約3分の1が初発の糖尿病または前糖尿病状態であった。

【Strategies to Prevent T2DM in Patients with Prior GDM】
①GDM既往のある女性をDMへと進展させないための予防戦略に関して、どういった方法がベストであるか、現在のところはっきりとしたエビデンスは存在しない。ただ早い段階で介入を行った方が良い結果が出やすいといえる。
②T2DMの累積発症率は産後5年間にかけて上昇していき、10年でほぼプラトーに達することが知られている。
③メキシコ系アメリカ人女性に対する産後4年間の研究では、GDM群ではGDMのなかった女性群よりも、より早くインスリン分泌能が低下し、感受性の低下も早かったという結果であった。
Lifestyle Changes and Metformin
①ADAのガイドラインによれば、糖尿病初発の患者に対する第一選択として食事運動療法とメトホルミンを推奨しており、これは長期にわたる研究の結果、安全性が高いことに基づいている。
②この戦略はDiabetes Prevention Program(DPP) Studyに基づいて定められたものであり、DPPは耐糖能異常を示した患者に対するメトホルミン、食事運動療法、プラセボの効果をDM発生率で比較したRCTである。
③DPPの事後解析として、GDM既往群と非既往群を設定し、その相違点が比較されている。
④GDM既往群においては、食事運動療法とメトホルミンでは効果に有意差はみられず、どちらも同程度に効果的であった。(プラセボ群と比較して約50%DM発症率を抑制)
⑤それに対して、GDM非既往群においてはメトホルミンよりも食事運動療法の方が効果的であった。(食事運動療法:49%, メトホルミン:14%抑制)
⑥以上の結果より、DPP studyに基づけば、GDM既往女性においては食事運動療法またはメトホルミン内服のいずれかを行えばよいということになる。
⑦しかしこのDPP studyの事後解析による結果を実臨床にそのまま応用するには、いくつかの問題点がある。
⑧まずGDM既往女性は非既往女性よりも年齢が平均8歳若く、さらにDPP studyに登録していたGDM既往女性は、出産後DM発症までに平均12年もの期間を有していることである。これより出産後間もない女性にDPP studyの結果を適応することには疑問が残る。
⑨GDM既往女性は非既往女性に対して食事運動療法のアドヒアランスが低く、体重コントロールも不良であり、治療からのドロップアウトが多いことも考慮する必要がある。
⑩The Mothers after Gestational Diabetes in Australia(MAGDA) studyでもこれに近い結果が得られている。この研究ではGDM既往のある女性に対して、生後1年で食事運動療法群と非介入群を比較している。結果として体重増加は1kg程度の小さな差に留まった。しかしながら、出産後1年間で食事運動療法への参加率は低く、すべてのプログラムを完遂したのは介入群のわずか10%であった。
⑪以上のことから、DPP studyに参加しているGDM既往女性群での結果は、実臨床でのGDM既往女性に対する治療効果の乏しさを正確に反映していないといえる。そして最も大きな問題は、食事運動療法への参加率の低さであり、それゆえ薬物療法による介入が、DM発症予防のためにより重要性を帯びてくるということになる。

Thiazolidinediones
①Troglitazone in the Prevention of Diabetes(TRIPOD) trialは、GDM既往女性におけるβ細胞機能低下に対するトログリタゾンの効果を研究したものである。
②GDM既往があり、出産後4年以内のヒスパニック系女性に対してトログリタゾン400mg群とプラセボ群を設定して行われており、ベースラインにおいて約70%の女性に耐糖能異常がみられていた。
③30ヶ月間のフォローアップにおいて、トログリタゾン群ではDMへの進展率が低いことが示された。(5.4% vs 12.1%)
④トログリタゾンは治療開始3ヶ月後の時点でインスリン需要を低下させ、その効果は投与終了後8ヶ月間持続していた。(トログリタゾンは肝毒性のため現在では米国、欧州で発売中止となっている)
⑤続いてピオグリダゾンを用いたThe Pioglitazone in the Prevention of Diabetes(PIPOD, non-controlled trial)では、89名のGDM既往のある女性(25-54歳)を対象に試験が行われた。
⑥ピオグリダゾンはTRIPOD studyと同様にβ細胞機能低下を阻止し、DM進展率を4.6%へと減少させた。ピオグリダゾンに関しては今後のさらなる研究成果が望まれている。
Other interventions
①その他の薬物治療に関するエビデンスも、これまで幾つか提示されている。
②アカルボースはSTOP NIDDM studyにおいて、ピオグリタゾンはACT-NOW studyにおいても、リラグルチドはSCALE study (table1)においてDMの予防または進展を防止することが示されている。
③肥満外科手術は、特に肥満が強い女性に対して、将来的に有望な手法として注目を集めている。Swedish Obese Subjects studyにおいて、BMI>36の患者において肥満外科手術がDM予防に効果を発揮することが示された。
④以上の研究結果も、DPP studyと同様に、より若く痩せているGDM既往女性に対してそのまま結果を適応できるものではないであろうが、対象とする患者をよく選べば効果を期待できるであろう。
⑤例えば、リラグルチドと肥満外科手術は肥満のある患者に、ピオグリダゾンは脂質異常の強い患者やNASHの患者に効果を期待できる。
⑥あらゆる薬物治療は出産後早期に行われることが推奨されているが、当然のことながらその母親は授乳しているかどうかはつねに考慮しなければならない。
⑦それに加えて、哺乳行為それ自体がGDMからT2DMへの進展を予防する可能性があるという報告に関しても、さらなる研究が必要となってくるだろう。
【Conclusion】
GDMを既往に持つ女性の糖尿病発症を予防するための有効な介入方法に関して、現在のところ明らかなエビデンスは全く存在しない。この出産後の糖尿病への進展のメカニズムが、母親のみならず、次に生まれてくる子供にも影響を与えてしまう、という事実がこの問題をより複雑なものにしているのである。GDMを既往に持つ女性に対して、産婦人科医が年一回の健診で空腹時血糖とHbA1cをフォローアップしていくことが推奨されていくべきである。フォローアップのための健診に来ない患者が多いこと、生活環境への介入に対するコンプライアンスが低いこと、そして既に高血糖となってしまった状態で、次の妊娠を迎えることのリスクを考慮すると、メトホルミンやピオグリダゾン、リラグルチドといった薬物療法を行っていく選択をすることも必要かもしれない。症例によっては、出産後のBMIを含めた包括的な内分泌代謝学的評価を踏まえた上で、外科手術による介入という選択肢についても、考慮していくべきであるだろう。GDMを既往に持つ女性の糖尿病発症を予防するために、生活環境に対する介入を行った群と行わない群を設定し、様々な薬物療法の効果を評価するRCTを今後実施していく必要があると考えられる。
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Systematic Chaos

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強していました。(2011/04-2017/03)
無事医師免許取得し、2017年より研修医一年目として社会人生活が始まりました。
新しいことばかりでストレスも多いですが、相変わらず様々な音楽に触れております。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
自分にとって魅力的な音楽を、様々な視点で、
新旧洋邦を問わず掘り下げて参ります。
初心者ですが宜しくお願いします。
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