私的名盤紹介―真の雑食を目指して

自分の心に残った作品を紹介することで、新たな音楽を見つけるきっかけとして頂ければ嬉しいです。

2018年度 私的ベストアルバム15 邦楽編

私的名盤紹介にいつもお越しくださっている皆様、
そして私的名盤放送をご覧くださっている皆様、お世話になっております。
管理人の@privategrooveです。

この「私的名盤紹介」を始めてから丸6年が経ち、現在メインの企画として継続しているTweet Castingの
私的名盤放送」を初めて2年余りが経ちました。はじめは中古CD, TSUTAYAでのレンタルを中心に作品を集めてきましたが、
ここ2-3年はアナログレコードで音楽を収集することが増えてきました。
聴取を巡る環境や社会の変化は、大学に入学した頃には想像だにしなかったほど大きなもので、感慨深いものがあります。

一人暮らしを始めて、自分専用のオーディオ(PMA-50& Dali Zensor1)を得られたことで、
アナログを毎日聴きたい時に聴けるようになったことは、大きかったと思います。
それだけでなく、音楽聴取の大部分はアナログとストリーミングサービス(Spotify)に置き換えられ、
CDを購入する機会は減ってきています。SpotifyとBluetoothによる組み合わせは非常に使いやすく、
オーディオシステムとカーオーディオの両者で大活躍しています。

研修医の生活にも慣れてきました。職務も3次救急病院とはいえ、比較的時間のある施設での研修であったため、
新譜、旧譜共に学生時代に負けず劣らずの数、作品を聴くことができたと思います。
しかしながら、ブログとして文章を書いていく時間を取れなくなってきたのは事実です。
一発勝負の「生放送」という形式をとることで、よりリアルタイムな情報発信を行うことができるようになった一方で、
まとまった形で音楽についての文章を残す機会が減っており、歯痒い思いもしています。

せめて年間ベストアルバムは、しっかりとした文章の形で残しておきたいと考え、
邦楽、洋楽共に15枚ずつのアルバムを選ばせて頂きました。
私的名盤紹介管理人が、自信を持ってお勧めする30枚の素晴らしい作品たちです。どうぞ。

【邦楽私的ベストアルバム15】

第15位 After The Rain/古内東子

After the Rain古内東子
90年代半ばよりフュージョン~AOR, ブルーアイドソウル的なサウンドで異彩を放ったベテランSSWのデビュー25周年作。
90年代当時はシティポップ自体が勢いを失っていつつあった時代でもあり、
その中で滑らかでグルーヴィーなサウンドを作り上げた彼女の存在は、JPOPの中でも稀有な存在だと思います。
この最新作ではプロデューサーにクニモンド瀧口(流線形など)、河野伸(ACO, Crystal Kay, 中島美嘉, ピチカート・ファイブ、
堀込高樹などを手掛け、菊地成孔のSPANK HAPPYのメンバー)を迎え、バックにはアシッドジャズを代表するバンド、
Incognitoを迎えています。かと言ってアシッドジャズ的な軽いリズムの曲は少なく、
むしろ表題曲M2のように重厚なサウンドが特徴的で、ホーンのアレンジはさながら山下達郎のようです。
M1は90年代のStrengthなどに近い彼女の得意とするタイプの楽曲だと思います。
そのほかDavid Foster的なバラードM3, Anita Bakerの楽曲に24th Street Bandのバッキングを組み合わせたような
ブラックコンテンポラリーM4はパリッとしたトーンのストラトのソロが堪りません。メロウなM6はサビのコーラスの生々しさと
テーマの美しさは圧倒的です。Ronny Jordanのようなファンキーなカッティングとクラビネットのリフで彩られるM8など、
高品位な楽曲が並んでいます。自身の得意とするサウンドを存分に発揮した、円熟の一枚です。

第14位 BLUE COMPASS/水瀬いのり
BLUE COMPASS
95年生まれの女性声優のソロ2nd。自身は水樹奈々さんのファンであることを公言しており、
水樹さんと同じくイメージカラーを青とされているようです。
1stシングルが意表を突いたジェットコースターのような曲で驚いていましたが、
水樹さんの楽曲と対比して考えると、よく理解できるような気もします。
2ndは全体として爽やかで明るい曲調のものが多く、手数の多いドラムや派手なストリングスはアニメソング的とも言えますが、
緩急の付いたバンドサウンドで、聴きやすいバランスになっていると思います。
渚のバルコニー/松田聖子のようなメロディで始まるM1, 速いテンポのポップロックでCall & Responseの要素もあるM2は、
かつてのGLAYを思わせるような懐かしいハーモニーやギターソロです。本作の白眉はM4で、
スウィンギーなイントロから分厚いホーンセクションの入ったイントロから一気に引き込まれます。
サビは80sソウル的な進行にオクターブのベースラインが絡みつき、ロングトーンもしっかりと聴ける、
しかもアニメソング的な可愛らしさもあり、上坂すみれ/ノーフューチャーバカンスとあわせて、
今年のアニメ関連楽曲でも最高の出来上がりだと思います。2番サビあとからフュージョン的なキメが連発したり、
一部ピアノのみになったり、ラストサビの前で多重コーラスを合わせたりと、編曲の細やかさも素晴らしい。
メロディとユニゾンするグロッケンとストリングスが冷ややかなM5, 弾き語りのバラードM12など、
全体的に統一感のあるサウンドで、水瀬いのり自身の個性となる音を確立したアルバムになったと思います。
有形ランペイジやTRIX関連のスタジオミュージシャンが参加していることも、彼女がいかに将来を嘱望されている
アーティストなのかを表していると思います。今後が楽しみです。

第13位 Baby Bump/Chara
Baby Bump
1968年生まれの埼玉県川口市出身のシンガー、SSWであり、YEN TOWN BANDでの小林武史との名タッグや、
ソロでのヒットは数知れないベテランですが、これまできちんと聴いたことのない方でした。
シンガーとしてはソウル/R&Bからの影響を述べており、特にPrinceに最も影響を受けたとのことです。
最新作、コンピ合わせて29枚目のアルバムとなった本作は、最先端のブラックミュージック、
フューチャーソウルやアンビエントソウル、ネオソウルのエッセンスをふんだんに取り入れた、
コズミックなサウンドの一枚になっています。ジャケット写真はかつてのErykah Baduのようです。
ベタッと一様なリズムマシンが近年のディスコリバイバルを髣髴とさせるM1に始まり、
緊張感あふれるエレピの歯切れの良いバッキングにミニマルなメロディが絡みつくファンクM2,
デトロイトテクノそのものなイントロから始まる表題曲M3は、歌が入るとEDM的なコードが目立ちます。
デジタルな質感でありながら、P-Funkの楽曲のように音の塊が混然一体としてぶつかってくるようなM5も素晴らしい。
フィリーなストリングスと生々しく太いベースラインが心地良いM7, へばりつくようなボーカルとワウの深くかかった
シンセを中心としたマシンファンクM8など、JPOPのメインフィールドで活躍してきたアーティストとは
思えぬほどの濃厚でビターなファンクが詰まっています。70sソウル直系の音でありながら、
見事にモダンな音で作り直したM11も最高。プロデュースにはLucky Tapesの高橋海や、
トラックメイカーのTENDREなどを迎えており、最高のコラボレーションとなったと思います。

第12位 M-P-C “Mentality, Physicality, Computer"/冨田ラボ
MPC.jpg
00s前半から現在に至るまで、映画音楽、ブルーアイドソウルや後期Steely Danに代表される
AORに影響を受けた複雑なコード進行と精緻な編曲、多重録音と宅録による独特なスタイルで、
JPOPにおいて特異な存在感を放つプロデューサー、冨田恵一のソロプロジェクト。6枚目のオリジナルアルバムです。
前作からは近年の邦楽ブラックミュージックの流行を取り入れたサウンドを指向するようになり、
本作でもその傾向は維持されています。過去の作品でもドラム音源をワンショットずつ自身で録音し、
くみ上げるという独特なスタイルでリズムトラックを構築していることからも、
ヒップホップのアーティストと類似点を見出すことができるかと思います。
今作では女性ラップデュオのchelmico, ジャジーヒップホップの最先端を行くKANDYTOWNのryohu,
ものんくるの吉田沙良、東京事変のメンバーでありペトロールズの長岡亮介、
ジャジーヒップホップとフューチャーソウル/ファンク、ネオソウルを混ぜ合わせたWONKの長塚健斗などが参加しています。
特にKANDYTOWNのryohuのラップに得意とする生々しいドラムスのフィルが緊張感ある
グルーブを作り出す表題曲が素晴らしい。その他WONKとのスウィンギーなネオソウルM6など収録。

第11位 Hi-Fi POPS/ORESAMA
HiFiPops.jpg
小島英也とぽんの2人組による長野県出身のJPOP, アニメソングユニットの2ndフルアルバム。
2014年に一度メジャーデビューを果たすも、レーベルとの問題によりシングル1枚でマイナーへ、
その後2017年に再デビューを果たします。トラックメイカーの小島氏はNile RodgersやEarth, Wind & Fireなど
ディスコミュージックからの影響を公言しており、そうしたサウンドをベースにして、
現代的なトラップ~フューチャーソウルのテクスチャーを取り入れたポップスという点で、
彼らのスタイルが確立されたアルバムになったと思います。白眉はTVアニメ『魔法陣グルグル』2クール目OPとなったM2で、
現代のアニメソング系ブギーの中でもとりわけ煌めくメロディ、キュートなボーカルとスリリングなストリングスの
組み合わせが必殺。ブリブリとしたスラップベースと重いビートはスクエアに、アニメファンにも聴きやすい。
その他密室的な音作りのM6も素晴らしい。

第10位 愛をあるだけ、すべて/KIRINJI
愛をあるだけ、すべて
90sから冨田恵一とのタッグで知る人ぞ知る存在となり、最近もヒット曲「エイリアンズ」がTV-CMでも使用され
息の長い活動を続けている堀込高樹、堀込泰行による兄弟シティポップ/AORユニット。
2013年に泰行氏が脱退して兄、高樹氏が中心のバンド体制へと移り変わります。
特に後期Steely Danと比較されることの多い彼らですが、テンションコード、意表を突くコード進行を中心に
語られがちだった彼らの最新作は、80sソウル、ディスコを髣髴とさせるグルーヴィーな一枚に仕上がっており、
また新境地に達した感があります。意味不明な歌詞でありながら不思議な浮遊感のあるダンサー、
M3はこれまでのキリンジ、KIRINJIにはなかった80sテイストの強い一曲で最もお気に入りです。
M1は、豪華なホーンとブリブリとした低域の多いベースライン、繰り返しの多い歌詞とファンクロックな
ギターソロが新境地です。なんとM2は4つ打ちのキックでハウス的に始まり、
Zappばりのトークボックスがフィーチャーされたダンサブルな一曲です。
アシッドジャズなコード進行とひんやりとしたエレピのバッキングが疾走感たっぷりなM4も、
ハンドクラップを入れて往年のディスコサウンドのよう。M6も意味不明な曲名ですが、
ネオソウルらしいハーモニーのコーラスと、スラップを多めに使った重いリズムが
SlaveやOhio Playersをはじめとするオハイオファンクのようで、ねっとりとした質感です。
これも素晴らしい。どこかで聴いたタイトルのM7はEDMのようなイントロとブラコンなサビが面白い組み合わせです。
まさに、新たなる邦楽レアグルーブな一枚。

第9位 THE ASHTRAY/Suchmos
The Ashtray
神奈川県出身の男性6人組ロックバンド。Louis Armstrongから命名したというバンド名ですが、
1stフルは主にUKの90sアシッドジャズを基礎としながら、それよりもさらに重厚なリズムで、
ロック/ポップスファンにも訴求力のあるキャッチーさで再構築しており、2018年度の紅白歌合戦にも出場するなど、
年代問わず注目を集めているバンドです。ボーカリストのYONCEは、姉の聴いていたMISIA, TLCといった
R&B系シンガーに幼少期から関心を持って居たようで、ロックバンドの形式をとりながらも、
ボーカルのタイム感はR&Bシンガー的なものを感じます。かつてはNirvana, Michelle Gun Elephantなど
オルタナティブロック、グランジなどをレパートリーとするコピーバンドを組んでいたこともあり、
2ndフルはロック然としたジャリ付いたサウンドが多めでした。本作は初のミニアルバム形式で、
ブラックミュージック寄りのサウンドが多くなっています。特にM3Fruitsはブラックコンテンポラリー色の強い一曲で、
スモーキーな編曲と合わさり、新境地に達しています。

第8位 dressing/Lucky Tapes
dressing.jpg
高橋海、田口恵人、高橋健介による3人組のロックバンドのメジャー1st。
デビュー当時から、とても邦人とは思えないシャープなドラムスや、ネオソウル以降のコード感を纏いながら、
AOR~ブルーアイドソウルファンにも堪らないキャッチーさもある円熟したバンドでしたが、
メジャーデビューに際してCharaや韻シストのBASIをゲストに迎え、多彩な音楽性を見せています。
それに伴い、フロントマンの高橋海の趣味が前面に出たアルバムにもなっていると思います。
先行シングルのブギーM1は滑らかなホーンとモータウン的な温かみのあるキャッチーなイントロが素晴らしい。
M2は星野源も参照したCurtis MayfieldやIsley Brothersの香りがします。鋭いキメもたまらない。
M4は不穏なホーンのループを中心としたヒップホップ以降のテイストとポップなサビの組み合わせが最高。
Charaをゲストに迎えたM8はラップに挑戦した後半部が特徴的です。アルバムを出すたびに成長を続けています。良作。

第7位 TVアニメ「スロウスタート」キャラクターソングアルバム「Step by Step」/V.A.
TVアニメ「スロウスタート」キャラクターソングアルバムStep by Step
芳文社の『まんがタイムきらら』で、2013年から連載している4コマ漫画シリーズ「スロウスタート」のTVアニメで、
2018年1月~3月にかけて放送された同作品のキャラクターソングアルバムを選びました。
キャラソンアルバムということで、声優さんを各楽曲のボーカルに据えながら、
プロデューサーはROUND TABLEのほか花澤香菜のプロデューサーとしても知られる北川勝利が担当しています。
7曲収録のミニアルバムですが、北川氏が花澤香菜のプロデュースで作り上げてきた華やかで
ヨーロピアンな香りのあるポップス、Burt Bcharachのような構築された編曲のオールディーズ、
AOR~ブルーアイドソウル、アシッドジャズ、あの頃の渋谷系の音などが見事に混ざり合った高品位な楽曲が揃います。
花澤香菜/恋する惑星での手法をふんだんに使ったM1, アシッドジャズ期のOriginal Loveを思わせるようなM2,
細やかな多重コーラスとストリングスの組み合わせによるヨーロピアンなM4,
沼倉愛美の翳りのあるボーカルと美麗なストリングスがかみ合うジャジーなバラードM5など、
いずれもキャッチーな楽曲が揃います。

第6位 平成/折坂悠太
平成
鳥取県出身のSSW, 平成元年生まれ。ロシア、イランで幼少期を過ごし、2014年から自主制作でアルバムを出しますが、
今年になり突如としてフジロックやライジングサンに出演するなど注目が集まっています。
詳細不明な経歴の彼ですが、明らかに非アメリカ非イギリス的な、例えば中近東的な、
東南アジア的なテイストのある旋律やハーモニーに、日本の民謡のようでもあり、
またブルース的でもある独特の撚れたボーカルが絡みつく、独自の音世界を確立しています。
彼の1stフルとなる今作では、ワールドミュージックを指向していたころのOriginal Loveのようなサウンドに
朗々としたボーカルがとても新人とは思えないM1, スウィングジャズなリズムに民謡的なメロディをビブラートなしで
語るように歌うM2, 個人的にはとりわけファンキーでグルーヴィーなM6がお気に入りです。

第5位 LIBIYAN GLASS/UNCHAIN
LIBIYAN GLASS
京都出身の4ピースロックバンドであり、管理人自身、学生時代から毎年ライブに通っている彼らの最新作は、
70s-80sソウル、ファンクロック、00sのミクスチャーロックを中心としながらも、
さらにその表現の幅が広くなった一枚となりました。彼らの楽曲の中でも特にメロディの難度が高いM1は
パッドの音を効果的に用いたイントロがこれまでになかったパターンです。
アップテンポでかつてのAVEX時代に近いM2も、演奏の練度が高まり、リズム隊の重さが増しています。
LAでのリレコーディングの経験が大きく作用しているのだろうと思います。
カッティングがカギを握る80sソウル的な、レイドバックしたミドルM3、シカゴソウルのリズムのM5は
徐々に音数を増やしていくクラブミュージック的な造りと、巧みなファルセットのコーラスをフィーチャーしています。
英語詞によるM7も8分のエレピのリフを基本としながらも16分のノリを上手くミックスし、
ソウルなサビメロをロックに聴かせてしまうのが彼らの才能といえるでしょう。
最後を飾るM12はロックバンドの範疇を出て、極限までStevie Wonderの楽曲に肉薄しています。

第4位 RUN/tofubeats
RUN.jpg
神戸市出身、関西学院大学経済学部卒のトラックメイカー、プロデューサー、90年生まれ。
ハードオフやブックオフで手に入れたCDやLPを用いながらトラックメイキングし、
JPOPのリミックスでその名が知られるようになり、遂には彼自身の憧れである森高千里やBONNIE PINKとも共演したりと、
今や日本のゆとり世代を代表する売れっ子となりました。彼自身のYoutubeチャンネルでは、
ハードオフで1000円の予算で買いそろえたLPを用いて1時間の時間制限付きでトラックを作るという
「Hard Off Beats!」という企画を運営しており、自身の親友を多く集めてワイワイと楽しむ様子を見ていると心が温まります。
これまでのソロ作ではオートチューンを深くかけたボーカルと、90sJPOPや渋谷系、
ニューミュージックを思わせるポップな作風でしたが、前作からはフィルターハウスやデトロイトテクノなど、
彼が影響を受けてきた電子音楽を徐々に前面に出すようになりました。
そして今作では遂にオートチューンを一部外しており、生の声でのボーカルが聴けたり、
インストの4つ打ちテクノ、ハウスの楽曲も収録されました。特にお気に入りはM4で、
Kashifのブラコンサウンドをアップテンポにし、現代的にブラッシュアップされた見事なブギーです。
細やかなドラムンベースを合わせたポップスM3も、彼のトレードマークとなるサウンドながら、リズムは攻めた作りです。

第3位 JUNCTION/早見沙織
JUNCTION.jpg
東京都出身、早稲田大学出身の女性声優による2ndフル。幼少期からジャズボーカルで鍛え上げた
音感とピアノのスキルも合わせて、声優としての実力もさることながら、
キャラクターソングなどでの歌唱にも定評がありました。一昨年、遂にソロ1stアルバムを発売し、
今作では竹内まりやをゲストに迎えたM13などあるものの、かなり大部分の曲を自分で作詞作曲しています。
それだけでも恐るべきことですが、楽曲ごとにボーカルの表現を様々に変えながら、
ある時はビブラートバリバリに張り上げたかと思うと、キュートでポップにも歌えますし、艶やかで滑らかなトーンも出せており、
変幻自在の表現力を見せつけます。正確性、リズム、グルーブに対する解釈、トーン、ビブラート、声の立ち上がり、
全てにおいてボーカリストとしてトップクラスの実力であることを、本作を聴いて確信しました。
アメリカンロックなM1もサビでは少しトリッキーな構造になります。
アシッドジャズM2ではBrecker Brothersのような鋭いホーンが入り、アンニュイな表現が堪りません。
歌謡曲的なメロディにミクスチャーロックなテイストを混ぜたM3, 昭和歌謡のM3,
北園みなみ~Lampを思わせるネオ渋谷系なイントロ、クラビネットのファンキーなバッキングと
ソウル色の強いM8も素晴らしい。多重コーラスから始まりファンキーなカッティングが入ったフュージョン的な構造で、
アンビエントなタッチのボーカルが組み合わさる不思議なM9も良いです。
エレキギターの弾き語りM10ではディーバ的な伸びやかで艶やかなトーンで歌い上げます。
竹内まりやによるM13は、Denim以降の近年の作風に近い、スケールの大きなバラードで、
リヴァーブ感が80sの山下達郎の諸作に近く、暖かみのある音です。
すでに2ndアルバムにしてこれほどの完成度を見せる彼女、これからどこまで成長していくか、本当に楽しみです。
アニメソングファンというよりは、90JPOP, 渋谷系、AOR、アシッドジャズなどあらゆるポップスファンに訴えかける名盤。

第2位 初恋/宇多田ヒカル
初恋
活動再開し2枚目となった本作は、1stのタイトルを思い出させます。
サウンド的には最新のブラックミュージックを中心としながらも、独特の日本語詞と譜割り、
生々しいコーラスなどはそのままに、内省的で暗い中にも、どこか暖かさや慈愛を感じる音世界を作り上げます。
M1は4つ打ちのキックから始まるイントロ、シンセリードの質感などはエレクトロな印象が強いですが、
自身の声以外のコーラスを加えていたり、Chris Dave(Ds, Robert Glasperバンドのほか、
Adeleなどジャズフィールドを超えて活躍、かつてはMint Conditionにも所属していました)、
Sylvester Earl Harvin(Ds), Reuben James(Key, Sam Smithなど)などを
迎えており、生演奏の占める比率が大きくなりました。
ピアノ弾き語りで始まるM2も、白玉はシンプルなリズムですが、
"ai"の音で絶妙に韻を踏んだ歌詞と、歌それ自体でグルーブを見事に作り出しています。
サビ前にかけてヘヴィーなドラムス、豪華なホーンとフィリーソウルのようなストリングスが加わります。
しかしながら、あくまで音は密室的な暗さを残しており、レコーディングの妙を感じさせます。
曲後半では80sスムースジャズ的な進行もあり、シティソウル好きとしても最高です。
続くM3でも、シンプルなピアノ伴奏と、日本語詞の作るリズムでハネたグルーブを作り出しており、驚かされます。
このトラックに対してこのリズムのメロディをはめ込もうという発想自体、常人にはとても思いつかないものです。
Kingdom Hearts ⅢのテーマソングとなったM4は、J Dilla的な訛りのあるリズムを完璧に歌いこなしながら、
シルキーで暗いストリングスが彩ります。サビの部分でのコーラスの質感はFinal Distanceを思い出させます。
キメの部分、ラストではジャストなタイムに戻ります。このテクニックは恐ろしい。
緩い16ビートのリズムパターンで、ダークな雰囲気はそのままにグルーヴィーに仕上げたM5は、
後半にかけてこれまでの彼女の楽曲の中でも最も生々しい演奏となっています。
UK出身のMC, JevonのラップをフィーチャーしたM6は、あまりにも悲しいテーマを取り上げた一曲で、
椎名林檎を思わせる歌詞が印象的です。後半はほぼラップのみで構成され、
ラップのフロウはChildish Gumbinoのような流行のそれよりも、90sNative Tongueに近しいもののように感じられます。
アウトロに少しTimberland的なSEも加えます。
そのほか、リズムマシンの音をそのまま使った生々しいリズムトラックにパイプオルガンを乗せ、
ボイスサンプルをコーラス代わりに使うという組み合わせが面白いM9,
そして個人的には最もJPOPらしい構造のM10がお気に入りです。
M10のようなポップスでも、これまでより滑らかなドラムトラックが入っていて、人力なサウンドを指向しています。
ポエトリーリーディング的な歌い方を取り入れた重厚なM11では、繰り返されるフレーズが念仏を思わせるようです。
ラストを飾るM12も太い低域のベースが非常にメロディアスで、かつてのChaka Khanのバッキングをしていた頃の
Anthony Jacksonに近いプレイです。最新のトラップやヒップホップのサウンドに媚びすぎることなく、
かつ、「バンドミュージックとしての宇多田ヒカル」という新たな側面を見せた最新作は、やはり傑作でした。

第1位 POP VIRUS/星野源
POP VIRUS
前作Yellow Dancerで70s-80sソウルへの憧憬を如何なく発揮しながら、独特な中華メロディやストリングスのオブリガートなど、
独自のサウンドを確立した感のある星野源の最新作を1位に選びました。
今作ではリードトラックにMPCプレーヤーとして活躍するSTUTS(ソロアルバムも素晴らしい出来でした、
惜しくも今回は選外、PUNPEE/夜を使い果たしてやCHEMISTRYとの共演でも知られる)、
河村智康(Ds, 椎名林檎、桑田佳祐、松任谷由実など)、玉田豊夢(Ds,レキシ、aiko, いきものがかり、ポルノグラフィティなど)、
ハマオカモト(B, OKAMOTO’s), 石橋英子(Key), 長岡亮介(G, ペトロールズ、東京事変)、山下達郎(Chorus, M7)、
伊賀航(B, 細野晴臣、鈴木慶一)などが参加しています。山下達郎とは「ラジオの日」で対談したことが関係しているようです。
STUTSによるスウィンギーなビートで、サビのテーマになるメロディはかつてのSMAP/どんないいことを思わせるようで、
90sポップスの煌めきを現代風のサウンドで楽しめます。大ヒットドラマのテーマとなりダンスが話題になったM2は
細野晴臣風の中華メロディなストリングスのイントロが印象的です。
M3はハマオカモトのベースをフィーチャーしたソウルですが、Jackson 5/I Want You Backを思わせるようなサウンドで、
まさに得意とするところです。お気に入り。80sソウル進行を取り入れたM4は美麗なストリングスがフィリーソウルのよう。
M5もハンドクラップの特徴的な、細やかなリズムが存分に楽しめます。
山下達郎のコーラスをネオソウル風の楽曲に組み合わせるという驚くべき組み合わせなM7は、
密室的なサウンドと合わさって異彩を放ちます。冒頭でTR808のカウベルや太いリズムが鳴るM8は
弾き語りを中心とした心温まる一曲。ブーミーなシンセベースとドラムンベースが組み合わさったM10,
かなりテンポの速いスネア連打が難度の高いM11もNHKドラマのテーマソングとなりました。
恋にもつながるストリングスのテーマが再度出てきますが、後半でSTUTSのビートがフィーチャーされます。
AOR的なコード進行のクワイエットストームM13は本作で一番のお気に入りです。TR808でSTUTSが彩るビートが合わさると、
かつてのIsley Brothersのようなメロウさで、Yellow Dancerに収録されたSnow Menと合わせて
BCM(ブラックコンテンポラリー)好きには堪りません。
これほどのサウンドの独自性、演奏、編曲が完璧にかみ合ったポップスが、
日本で大衆に受け入れられていることは、どれほど喜ばしいことでしょうか。
彼のルーツにあるブラックミュージックが、さらに日本人に深く、広く愛されることを願いたいと思います。

私的名盤紹介、年間ベスト、ひとまずは邦楽編をお送りしました。
いかがでしたでしょうか。
今年(もう年を越してしまいましたが)もメロディの美しさ、聴きやすさがありながら高品位な編曲や、
僕の愛する70-80sサウンドを的確に取り入れた、宝石のようなJPOPが多数生まれました。

次は洋楽編です。ご期待下さい。
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  1. 2019/01/01(火) 19:08:22|
  2. 雑記(音楽関連)
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プロフィール

Systematic Chaos

Author:Systematic Chaos
独断と偏見により、お気に入りのCDを紹介して行きます。
医学部医学科の大学生として臨床医となるべく勉強していました。(2011/04-2017/03)
無事医師免許取得し、2017年より研修医一年目として社会人生活が始まりました。
新しいことばかりでストレスも多いですが、相変わらず様々な音楽に触れております。
山下達郎ファンクラブ
TATSURO MANIA会員。
水樹奈々ファンクラブ
S.C. Nana Net 会員。
上坂すみれファンクラブ
コルホーズの玉ねぎ畑 会員。
自分にとって魅力的な音楽を、様々な視点で、
新旧洋邦を問わず掘り下げて参ります。
初心者ですが宜しくお願いします。
好きなジャンル:
1. AOR, MOR, ソフトロック
2. R&B,ファンク, モータウン,
ニュージャックスウィング,
フィラデルフィアソウル, シカゴソウル,
ブルーアイドソウル
3. ポップス、Jポップ
渋谷系、ニューミュージック
4. プログレッシブロック
5. ハードロック, へヴィメタル,
プログレッシブメタル, スラッシュメタル,
メロディックデスメタル,ブラックメタル
6. ジャズ,フュージョン,
ハードフュージョン, アシッドジャズ,
ハード・バップ, ジャズファンク,
ジャズロック
7. ジャジーヒップホップ,
オルタナティブヒップホップ
8. エモ, スクリーモ
9. ハウス, アシッドハウス,ディスコ

ライブラリは65,000曲ほどです。
ヘッドフォンはAKGのQ701、Audio TechnicaのATH-ESW9、
イヤフォンはShure-SE425を使っています。
①DENON PMA-50 + Zensor1 (USB-DACプリメインアンプ+スピーカー)
②iPod Classic+TEAC-HAp50(ヘッドフォンアンプ)
③ONKYO DP-X1A のいずれかで聴いています。
ブログとして記事を書くことを通じて
自分のライブラリと向き合ってみると、
相当趣味が偏ってるということを
痛感しています。
これから沢山の音楽に触れ、勉強していきたいです。
たまに医学関連の記事や日々の雑感を書いております。
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